このブログでK字型経済を何度か述べたからとは言いませんが、突然、報道でK字型経済を取り上げるところが増えてきた気がします。たまたま皆がそういう風に思っていたのでしょう。K字型経済という言葉が専門家の中で使われ始めたのは2020年ごろではなかったかと記憶しています。
当時、バイデン氏が大統領選に臨んだ際、トランプ氏の各種減税政策はコロナ禍もあり、経済格差が広がると指摘した頃ではなかったかと思います。これが私のK字(型)経済という言葉との出会いだったと思います。その後、バイデン政権下ではK字傾向がやや収まっていたのですが、トランプ氏になって再び、その格差が広がりつつあるように見受けられます。
私が最近、時折使うK字型経済は日本の経済構造について述べており、日本もアメリカ同様、持てる者は持ち、持てないものは坂をゆっくり降りていくように貧していくシナリオが出てきたとみています。少なくともこの1-2週間でK字経済を取り上げたのは主要メディアだけでも日経、朝日、時事、週刊ダイヤモンドなど非常に増えてきています。

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K字経済とはKというアルファベットのカタチの通り、上に行く者と下に下がってしまう者の格差が時間と共にどんどん開いていくことを意味してます。
人より一歩先んじることをモットーとしている私としてはメディアに追い付かれてしまったのならその議論は言論の世界に任せるとして一歩先を考えてみたいと思います。それは賃金のK字化であります。
私は人を採用する側にありますので採用業種や職種により労働市場の妥当な賃金水準はある程度把握してきました。当地ではそのような統計を入手することは極めて簡単で、人材募集する際にこの仕事ならいくらぐらいの賃金や給与をオファーしたら妥当なのか、はほぼ一目瞭然です。採用される側もそれはある程度知っていることが多いと思います。
北米でこのような調査が進んでいる理由は転職が多いからです。ジョブディスクリプションが明白な北米において期待される業務が明白に定義される場合、極端な話、どの会社に行っても同じような報酬体系になりやすいとも言えるのです。
採用する際も一種の専門職として見ますのでそれなりの報酬となりますが、問題は採用後、毎年行う面接を通じての給与交渉なのです。従業員は当然ながら一定程度の昇給を期待するのですが、専門職となるとこの枠組みが邪魔をするのです。例えばある業務の年収水準が600万円から800万円だとします。雇い始めは600万円ですよね。そして毎年一定の昇給はあるのですが、何年かすると800万円の上限に達してしまうことがあるのです。その時、私は「あなたの給与は職能的にMAXなんです。これ以上、上げるにはあなたの職能がさらにアップしない限り給与の大幅な上昇は期待できません」とはっきり申し上げています。つまり「スキルを上げなさい、さもなければ給与は横ばいよ」と。
ところがこのスキルアップが難しいのです。北米でもできる人は2-3割かもしれません。当然、待遇が大きく改善されないので「私、辞めます」です。他のところに転職と言ってもリファレンスが当たり前の人事の世界では前職で努力せず給与も上がらなかったことはほぼ見抜かれます。
「人は努力し、成長するべき」なんて言いますが、それをずっと維持できる人なんてごくわずかしかいないのです。では組織の中で生き残るのはどうしたらよいのでしょうか?案外、人間臭いコミュニケーション能力、愛社精神、まじめに勤めるとか、上司への「報連相」といった形が評価されたりするのです。つまり仕事の内容の外側の部分です。職能が身体能力なら人の評価は性格とも言えます。
こういう方はK字型の上にぶら下がる形になります。K字の上側を闊歩したいなら自己改革とスキル向上、会社への圧倒的な貢献度などを通じて経営側の目に留まることが今後、より重要になってきます。
さて、私が賃金のK字化と申し上げたのはK字の下側の人の場合、今後、AIという強力なライバルが出現することでより厳しい社会が待っているという点です。AI論争において雇用が脅かされるか、という議論がありますが、給与は今後、上がり続けるのか、という議論はあまりされていないと思います。しかし、業務内容がことごとくAIに取って代わるとなれば会社側は「あなたにAIより優れているスキルは何がありますか?」と聞くことになります。これ、めちゃくちゃ厳しい質問です。
とすれば今までは専門職として好待遇だった人たちもまさかの事態が起きるということです。
会社が一番重宝する人材はどんな人か、といえば任せられる人だとほぼ断言できます。「あの人にお願いすればきちんとやってくれる」という安心感と、期待を裏切らず、満足しうる結果を持ってきてくれる人ですよね。そのためにはどうすべきか、といえば小さいことでもよいので「私にやらせてください」という積極性と信用を勝ち取ることではないかと思います。
政府は給与を上げてほしいと望んでいるようです。来年の春闘に向けて5%という数字が出たようですが、経済団体からは困惑が見えます。産業界の景況感はバラバラだからそんな一律の話をされても困るということでしょう。それと大手企業には給与を上げる余力があるけれどそうなれば、中小企業との差が開いてしまい、企業規模によるK字型賃金体系が生まれてしまいます。個人的には石破氏が唱えた最低時給1500円に向けて毎年6-7%程度の引き上げを継続して底上げする方が理にかなっているように感じます。(できる人はほっておいても出来るので問題ないという意味です。)
理論的にはK字型賃金体系を補正するには低い賃金で苦しんでいる人たちへの対策であります。少なくとも政府はK字の下側が横ばいになるような施策を進めていかないと将来、目も当てられない事態となるとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月28日の記事より転載させていただきました。






