12月は通常、外交は止まります。クリスマスやハヌカ(ユダヤ教のクリスマスで今年は12月14日から12月22日)があり、先週の感謝祭からいわゆるフェスティブなムードになりとても外交でガチガチやる雰囲気にはならないのです。
しかし、トランプ氏は12月も働く意欲が旺盛なようで、ベネズエラ包囲網を固めつつあります。ベネズエラの政権は歴代アメリカに対して敵対意識が強い中、現政権であるマドゥロ大統領の独裁化が続き、国家運営は最悪の状態になり、国外脱出者も増えています。同国は石油が出るので一時期は非常に潤っていた国家ですが、政治が国家を迷わせた典型的なケースとも言えるでしょう。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
そのベネズエラから最近、麻薬取引船がアメリカに頻繁に入っていたことからアメリカがその警戒を強化、運搬船は拿捕されて関係者は80人以上が殺害されています。トランプ氏はマドゥロ大統領と電話で会談をしましたが、マドゥロ氏はアメリカと「戦う」つもりはない意向を示しているようです。トランプ氏は本来であれば麻薬輸出の取り締まりを求めるべきところをマドゥロ氏の退陣を求めているとされ、実際には政権転覆を謀っているとされます。
実際、ベネズエラ上空と周辺空域は実質アメリカのコントロール下に置き、大西洋のアメリカ艦隊は同国周辺に集結しています。また地上戦も辞さない構えですが、ベネズエラの軍備は推して知るべしでアメリカが本気で攻めれば3日もかからずに政権転覆は可能と思われます。今後の攻め方次第ではシリアのアサド氏があっさり逃亡したのと同じような形になると思います。ベネズエラに民主化を、ということがトランプ氏の目的であり、麻薬密輸船は攻め入るために良い口実になったこと、そして再三申し上げているようにトランプ氏の大統領としての功績が十分ではないのでここでポイントゲットをしておくことではないかと思います。
ベネズエラの経済状態ですが、国連の関連機関の情報によるとGDPは2013年から21年の間に75%下落、国民の貧困率は96%、栄養が極度に悪い人が人口の30%、難民は790万人にのぼり、そのうち687万人が隣国のコロンビアに逃げています。ハイパーインフレで自国通貨よりステーブルコインが流通するといった話もあります。とにかく世界最貧国水準であることは間違いないでしょう。にもかかわらず、その上で胡坐をかき、搾取をし、大統領選では不正当選したマドゥロ氏を引きずりおろすことに誰も文句は言わないでしょう。
原油が出る国家なのに街に石油がなく、車にガソリンが入れられないなどお話にならないのですが、確か、石油のリグが古く、修理の部品も手に入らない状態だと認識しています。
トランプ氏は儲けることが大好きなのでマドゥロ氏を追い出した後、アメリカ資本が同国に流れ、石油産業を復活させるのではないかとみています。一方、ベネズエラを今日まで支援してきたのはロシアと中国。特に中国はベネズエラ最大の港、カベージョ港も抑えており、石油産業への資金を投じていたはずです。習近平氏とマドゥロ氏はかなり密接とされるため、中国が今の事態をどう見ているかですが、中国外務省が29日になってようやく声明を出し、アメリカを名指しこそしませんでしたが、国家の主権を尊重し、外国がそれに介入することに反対すると述べています。ただ英文を読む限りでは弱い声明でとりあえず声をあげたという感じに見えます。
ただ、中国は中南米に築いてきた国家関係と港湾などへの投資には強くこだわっており、ここがアメリカと正面衝突する部分ではあります。中国との火種を残すことになるかもしれません。
個人的には英語でいうAmericasという北中南米を全部含む地域はアメリカを中心とした強いガバナンスが期待されるところであり、かつてのキューバ危機のような事態は避けたいところです。また難民問題もアメリカがセンシティブであることを考えれば地政学的にもアメリカによる同国再建は理にかなっていると思います。一部の中南米諸国はアンチアメリカの思想があるのは事実で、アメリカの強権発動は反アメリカ主義を増長させやすいので外交的に硬軟取り混ぜた対応が求められるところでしょう。日本とベネズエラは関係が薄いのですが、自動車などを輸出しています。石油産業が復活してもパナマ運河の向こう側なので輸入はあまり見込めないかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月1日の記事より転載させていただきました。






