金利は上がるのか?円相場はどうなるのか?:ドル円が200円になるとき

日銀が12月18-19日の金融政策決定会合で利上げをするのではないか、と囁かれています。1日の植田総裁の講演で「利上げの是非について適切に判断したい」と発言したことが利上げをするのだろう、と読み解かれているわけです。専門家の見る12月の利上げ確率は80%にも達しているとされます。私も利上げはするのだろうとみています。

令和7年11月18日 首相官邸で日本銀行の植田和男総裁と会談を行う高市首相 首相官邸HPより

24年9月、高市首相は利上げをするなんてアホと放言しました。私が放言というのは政府は日銀とは一線があり、日銀の独立性を考えると経済安保大臣(当時)がそれをけん制するような発言をするのは一般的にはタブーなのです。私は高市氏に独特の言い回し癖がある点において麻生氏がその当時ずいぶん叩かれたのを思い出しました。関西ウケしても関東ウケしないこともある点には少し気遣いされた方が良いと思います。

今回、高市氏は植田総裁の発言や利上げ機運が高まっていることについてコメントしていません。トランプ氏は好き勝手言いたい放題ですが、あのスタイルこそ異常であってあれが当たり前だと思い、真似てもらいたくはないと思います。

さて、本題ですが、金利上昇については国内で様々な意見が飛び交います。それでも今回、金利引き上げが取り沙汰されるのは雇用と物価の安定が前提だからです。(くれぐれも日銀には為替安定の業務はありません。)

景気に対して今、アクセルを踏むのか、ブレーキを踏むのかを判断するのが日銀の仕事とも言えます。端的に言えば高速道路を走っている日本丸がスピードを上げすぎれば前を走る車にぶつかるし、遅すぎると追突されます。うまく流れに乗る、これが最も重要な任務であり、その適正スピードのことを中立金利と言います。景気をふかし過ぎず、失速させず、というレベルです。

そのスピードですが、12月2日の日経に「投機筋、またぞろ円売り加速か 日銀利上げの『限界』見透かす」に日銀が中立金利を1.0%から2.5%と示していると報じています。ではどこからこの数字が出てきたのか調べてみると日銀が24年8月に公表したワーキングペーパーに「インフレ率2%を前提にするなら中立金利は1.0-2.5%」とあるのです。多分ここでしょう。

これは読み手を惑わすと思います。24年8月の話を25年12月に適用できるのか、という話です。個人的には日経のミスリードと言われても仕方ないとと思います。というのは日経の同記事は今回仮に利上げをすれば0.75%だからあと1回で中立金利の下限に届き、その後の利上げが難しいというストーリー展開なのです。しかし、中立金利は今のインフレ率や企業景観、決算状況を踏まえると確実に引きあがっており、肌感覚としては1.5-2.5%程度ではないかとみています。とすれば日銀はまだまだ利上げする余地はあるはずなのです。

では仮に日銀にまだ1%もの利上げ余地が残されているとすれば先々の利上げの可能性、及びアメリカの利下げの可能性から日米金利差の縮小でドル円相場はもう少し円高に振れてもよいはずです。しかし、円の上値は非常に重い、これが為替を見ていて感じることなのです。なぜ円は買われないのでしょうか?

1つには高市氏と片山氏の財政緩和姿勢があります。財政を緩和させると財政悪化(国債の発行額増)によって円安になります。為替は通貨量のシーソーゲームなので一国の通貨量が増え、他国の通貨量が増えなければ価値が希薄化するのは小学生でもわかります。日銀は引き締め姿勢に対して財務省は緩める姿勢にある、ということはどっちが勝るかわからない、これが実態であります。

片山氏がいみじくも為替の安定は重要と言っているなかで財政緩和をするのですから円安傾向に拍車がかかるのは当たり前、そうなればブレーキ役となる日銀のスピード調整に文句は言えないのですが、なんだかチキンゲームの様相にも思え、傍で見ていると「大丈夫かいな?」と思えるところがあるのです。

もう一つ、為替は通貨量という「中立ポイント」に対して極めて大きな振れ幅が存在します。その振れ幅は国力や政治、地政学、資源、人口、潜在的な経済力など様々なエレメントがその時々の話題となり、それが為替に影響します。その振れ幅が対ドルで80円から160円だと考えています。この幅が市場で形成されたきっかけが1985年のプラザ合意です。

では私が懸念していることは何か、といえば円が160円を超えてしまうことなのです。

これ、ちょっと考えればわかるのですが、1985年というのは日本の景気が絶好調でバブルに向かっていた時期です。超長期チャートで見ると日本経済の強さを背景に1994年に1ドル90円台を一時的につけますが、その後、2008年ぐらいまで130円から100円台前半で落ち着いていました。ではなぜ、2013年にかけて80円を割る円高になったのか、といえば欧州危機の時に円の安全性が高まったこと、及び震災による円買い影響であります。たまたま民主党政権の時と重なっていて「あんな景気の時になんで円が買われるのだ」と思われるでしょうが、景気とは関係ない理由で円が買われたのであります。

では2008年から2013年頃の円ドル相場が外的要因による特殊事情だとしましょう。つまり、それまでの100円から130円がシーソーのコアな中立的位置に当たるとします。問題はその後なのです。安倍政権ではこのレンジ相場に戻すことに成功していますが、私に言わせればこれは安倍さんが何かをしたのではなくて欧州経済が安定したことと震災絡みの不安が解消したからだとみています。つまり元に戻っただけです。この安定感はコロナまで良かったのです。そこから明白に円安傾向に変わったのです。

何故か?私の見立ては国力ではないかとみています。日本がアジア唯一のG7に参加している国で経済力やアジアでの影響力も含めた強国という認識が薄れてきた可能性は否定できないと思います。世界の中で日本の存在感が薄いのは日本のプロダクトが世界の中で目立たなくなったことがあります。評価は高いのだけど国際影響力とパワーが小さすぎるのです。経済的には韓国の進出はあります。政治的には中国の影響力はあります。東南アジア諸国も徐々に力をつけてきています。こうなるとアジアでは日本一択ではない、これが1985年のプラザ合意の頃との最大の相違ではないかとみています。

為替のシーソーの中立点は動くのか、これは簡単に論じることができないと思います。その理由は通貨量の比率と言ってもその通貨の質が不変という前提が崩れていないかを考える必要があるのです。ドルは一極集中と言われるほど強くなった時期もあります。一方、トランプ政権になってからドル指数が下がっているにもかかわらず、日本のシーソーが上に上がらないのは何故か説明がつかないのです。説明はできないけれど中立点を円安側にずらせばバランスするのです。これだけは明白です。

財務省の為替介入や日銀の利上げによる直接、間接的な為替への影響力は短視眼的な役割を演じるわけですが、私にはどうやらもっと大きな視点で見ると地殻変動的な動きが生じているように見えるのです。

では最後にもう一つ質問です。多くの日本の方は「円安がお好き」と見受けられます。多分、株価にポジティブな影響があるからでしょう。しかし、仮にドル円が200円になった時、皆さんは海外旅行に行けなくなるかもしれません。いや行けてもその物価差に涙目になるでしょう。日本の物価は飛び跳ねます。日本は輸入に頼っているのです。その輸入物価が今より25%も上がるのです。今の感じだとそうなってもおかしくないのかもしれません。外国人観光客もさらに増え、外国人が日本の不動産を買い、外国人が日本の会社を買収するでしょう。だって安いんですから。本当にこれでよろしいのでしょうか?私は恐ろしいほどの不安がありますが誰もそんなこと、言わないし考えているようには思えないのです。ここは熟考すべき点ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。