中国共産党政権の最高指導者・習近平国家主席は2021年7月1日、中国共産党創建100周年を祝うイベントで記念演説をしたが、その中で「「だれであれ中国を刺激する妄想をするならば14億中国人民が血と肉で築き上げた鋼鉄の長城の前に頭が割れ血を流すだろう」と威嚇する発言をしているのだ。この発言はイタリアのマフィア・ボスの口から出たものならば納得できるが、14億人の国民を抱える国家元首の口から飛び出した台詞だ。
2025年10月31日 日中首脳会談 高市首相Xより
高市早苗首相は先月7日、衆院予算委員会で立憲民主党の岡田克也元幹事長の執拗な質問に答え、台湾有事について「(中国が台湾を)北京政府の支配下に置くためにどういう手段を使うか、いろんなケースが考えられる」と指摘した上で「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁した。その答弁に反発した中国の薛剣駐大阪総領事は「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と自身のXに投稿して日本国民を驚かせたばかりだ。親分が「頭が割れ血を流すだろう」といえば、子分は「汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやる」と暴言を発しているわけだ。
習近平氏を擁護するつもりはないが、習近平主席の演説は中国共産党の記念イベントとしてなされたもので、国民や外国に向かって発せられたものではない。だから、党内部の結束強化のために檄の一つや二つを飛ばす必要があったわけだろう。党のイベントでは外交辞令は不必要だからだ。その点、子分の駐大阪総領事の暴言はズバリ、外交辞令を無視した戦狼外交の典型的な例で弁解の余地はない。ただし、両者の発言は人間としての品性に欠ける点では同じだ。
ところで、習近平氏は演説の中で、「中国共産党」と「14億人の中国国民」を同一視し、党の勝利は国民の勝利であり、党の発展は国民の福祉向上につながる、といういつもの論理を使っている。習近平国家主席は2020年9月3日、抗日戦争勝利75周年記念の演説で、中国を批判する米政権に対し反論しているが、特に「党と人民は別」という指摘に猛反撃しているのだ。
もう少し説明すると、中国は‘中国共産党と中国人民が一体‘の国ではなく、共産党のエリート支配層(赤の貴族)が人民を支配している国家だ。この点が明らかにされれば危険だ。だから、「党と人民は一体」と繰り返し、それを否定しようとする者がいたら激しく批判しなければならないわけだ
習近平主席は反中批判に対し「中国人民は応じない」と対決姿勢を鮮明にする。注目すべき点は、同主席は「中国共産党は応じない」とは言っていないことだ。米国から人権問題で批判を受ければ、中国国民への批判のように吹聴し、国民に反米を煽る。中国共産党への追求はイコール中国国民への批判のように振舞うわけだ。中国共産党政権の常套手段だ。最近の反日キャンペーンも同じ展開だ。
いずれにしても、中国共産党政権が「人民」という使い古された言葉を頻繁に使いだした時、それは政権が危機にあると受け取って間違いないだろう。それも単なる経済危機というより、政権崩壊の危機を意味するからだ。だから、中国共産党は久しく、「中国共産党」=「中国国民」と強調、現政権を批判する声には、“反中国”ジャーナリスト、知識人というレッテルを張ってきた。国際社会は中国共産党が長年刷り込んできた誤った認識を見破ることが重要だ。
ただ、共産党党員の数が減少する一方、党員の中に党員意識が薄くなってきていることを警戒し、習近平氏はここにきて人民に愛国心を鼓舞してきている。
ちなみに、中国のビジネスマンがイスラエルを訪問し、商談する時、必ず飛び出すセリフがある。「われわれは5000年の歴史を誇る。あなたがたイスラエルは3500年の歴史を持っている。それに比べると米国は200年余りの歴史しかない」だ。自国を誇り、商売相手のイスラエルを称賛する一方、米国を軽蔑する時の常套句だ。
確かに、中国民族の歴史は長い。その文化は世界に誇ることが出来るものが少なくない。長い歴史の中で突然出現した中国共産党の歴史はまだ100年に過ぎない。その短い期間に中国共産党は多くの国民を粛正し、中国の伝統的な文化を壊してきた。その犠牲者の数は数千万人にも及ぶ。正確な数字は歴史家に委ねるとしても、100年の中国共産党の歴史は国民の血で塗られているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。