社会人人生を決定づけるきっかけは割とちょっとしたことが理由なことはしばしばあります。私が不動産を生業とするなんて少なくとも社会人になって数年たつまで全くその気配はなかったと言えます。唯一の理由は大学1年の時、友人の付き合い受験で宅建が受かってしまったことにあります。郵便受けに試験結果のはがきが来て大した期待もせずにみたら合格だったので「へぇ、受かったんだ」ぐらいで、ほとんど実感もなく、それが有益になるとも思わず、それを引き出しにしまい込み、記憶からも遠ざかっていました。それが会社に入って突然、価値がでて本社の宅建主任者の名前に私の名前が載るとは思いもしませんでした。
不動産の仕事が私にあっていたかどうかわかりません。無理やり合わせたのかもしれませんが、ある意味、特殊な世界の特殊な人間たちと桁違いの夢を追うという点では夢中にさせたのかもしれません。特殊な人たちにはいわゆるボーダーライン上の人もいるわけで今なら「それ、クロでしょ」というケースも結構ありました。それでも推し進めようとする強引さや力強さは巨額のカネが動くからだったと思います。
今でこそ、自分のお金で細々と開発案件をやりながら自社のアセットにひとつ、また一つと殖やす程度の事業しかしていませんが、私の周りでは桁が二つ違う話がさもありなんという感じで展開されています。ですが、ここバンクーバーでは現時点に限って言えば開発事業の成功者はごくわずかだと思います。1つの物件をやり終えるとそれなりのお金が転がり込んでくるため「よし、次はもっとデカいのを」ということになるのですが、それがどこかで破綻するのです。
私は売却せず、建物を自社運営に切り替えるのを特徴としているので建物完成時が本当のスタート。要は何年で投下資本を回収できるか、という計算をします。遅いものだと20年、早いもので8年ぐらいでしょうか?不動産が本当に成熟するのは投下資本回収後で時としてキャシュカウ(金のなる木)となりますが、税金も大変になるので次の物件をやり減価償却費をうまく活用して節税方法を考えるというのもひとつの手法になります。とすれば当然ながら資産が雪だるまのようになっていきやすいとも言えます。
お前はそんなにぼろい商売をしているのか、と言われそうですが、そこには長年の事業者としてのノウハウがあり、私の場合はテナントを見つけ、その人たちのハートを掴むことが本当の生業であり、テナントさんがいての不動産業とも言えるのです。ここは私はほかの人に負けない特徴だと思っています。
ところで世の中を騒がせている「みんなで大家さん」の成田プロジェクト問題は新展開となったようです。同プロジェクトは開発計画敷地が45万㎡もあるのですが、うち約4割に当たる18万㎡が成田国際空港株式会社(NAA)からの借地で展開する計画でした。ところが昨今、「みんなで大家さん問題」が社会問題化し、訴訟合戦となっていることも踏まえ、NAAは困難な判断を同社の決算前に行うこととしました。つまり借地契約を延長するか否かです。その前提条件で「みんな」側に「開発できる資金の目途をつけ、開示すること」を要求したのですが、「みんな」側はそれができず、NAAはあっさりと借地契約を解除することを決定しました。

笑顔が消えた大家さんたち 「みんなで大家さん」HPより
このプロジェクトは死ぬのでしょうか?私の目線ではここからが面白くなると思います。まず、プロジェクトを生かすなら「みんな」が持つ開発権と土地を第三者に譲渡し、そこで改めてNAAと契約する方法になると思います。NAAも二度も失敗すれば沽券にかかわることなので第一期では譲受者が自社の土地で開発を進め、開発後期でNAAの土地で展開するのがベストシナリオになります。すると「みんな」に投資していた個人のお金はどうなるか、といえば譲受会社が払う妥当金額に基づく清算だと思います。全額はもちろん戻ってこないわけで厳しい結果となります。
つまりプロジェクトは再生可能、「みんな」は再生不可能です。そもそも不動産開発は芸術作品を作るようなもので開発者のセンスを100%引き出すことでよい作品ができます。ところが無数の小口出資者が後ろにいてグズグズ言われるのでは良いものを作れるとは思えません。クラウドファンディングの最大の弱点は彼らはごくわずかのお金しか出していないのに声だけはデカく、事業者にとってはうざくてしょうがないのです。
不動産事業者は光と影のようなもので当たればそれこそ派手な生活をする人もいるようですが、私はそんなふるまいをしたことは一度もありません。お前はなぜ不動産開発をやるのか、と聞かれたら「また白いキャンバスに絵を描きたいのですよ」と答えます。つまり絵描きが美への追求であるように私も新しい創造物への強い思いだということです。そして生みの苦しみを知っているからこそ、完成後も大事に管理運営していくことで不動産は光るのだとも言えないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月5日の記事より転載させていただきました。





