商品をいかに売るかを考える際に、マイケル・ポーターの『競争戦略』が役立ちます。
ポーターの競争戦略は学び始めると実に深いのですが、あえてザックリ紹介すると、競争の基本戦略は3つだけで、
① 差別化戦略
② コストリーダーシップ戦略
③ 集中戦略
です。
「差別化戦略」は、他社はできない自社だけの独自価値を提供し、値下げせずに利益を獲得する方法です。
「コストリーダーシップ戦略」は、業界でどこよりも低コストにします。
「集中戦略」は、顧客や商品を絞り込む戦略です。
このうちコストリーダーシップ戦略は、業界で最低コストにする必要があるので、業界で1社だけが取れる極めて難易度が高い戦略です。
そこで多くの場合、差別化戦略か、集中戦略を考えることになります。
では消費者向けの商品では、どちらで考えるべきなのでしょうか?
ここでも、あえてザックリ紹介すると、こうなります。
認知率と体験率がほぼ100%の日用品は、差別化戦略を考える
日用品とは、わかりやすく言うと、スーパーで売っているような商品です。洗剤とかシャンプーとか、お惣菜、牛乳、食パンなど、私たちが日々の生活で買う商品です。
こうした日用品は、「お惣菜ってこういうものだな」「食パンってこういう味だな」というようにほとんどの私たちは認知できて、かつ、体験しています。つまり認知率も体験率も、ほぼ100%です。
ただ、それは「お総菜」とか「食パン」というカテゴリーレベルの認知と体験です。ブランドを売るには、さらにもう1段階深く考える必要があります。
例えばスーパーで買物中に、「あ。シャンプー買わなきゃ」と思い出した場合のことを考えてみましょう。
「シャンプー買わなきゃ」と思うのは、私たちがシャンプーというカテゴリーを認識して、かつ、体験しているからです。これはシャンプー業界が長年努力を積み重ねた結果です。
「シャンプー買わなきゃ」と思った私たちは、売り場でいつも買ってるシャンプーを手に取ります。いつものシャンプーがなければ、使ったことがあったシャンプーを探します。
でも使ったことがあるシャンプーがない場合、たいていの人はそこで買うのを止めます。ほとんどの人は、全く知らないシャンプーはまず買わないからです。
このように日用品のブランドを買う場合、そのブランドの認知率と体験率が、売れるか否かを左右します。
ここでのポイントは「認知と体験は二階建て構造である」ということです。
- カテゴリーの認知と体験 「シャンプーを知っている/使ったことがある」
- ブランドの認知と体験 「○○シャンプーというブランドを知っている/使ったことがある」
ほとんどの日用品は、カテゴリーの認知と体験はほぼ100%です。
でもブランドの認知と体験は、マチマチです。
そしてブランドの売上を左右するのは、「ブランドの認知率・体験率」なのです。
こうした日用品カテゴリーでは「差別化戦略」が有効です。
売場に沢山あるシャンプーのブランドの中で、自社ブランドの独自の価値を明確にして、違いを際立たせるのです。
ただここで企業がよく考えがちなのが、ライバル商品と機能面での比較を始めてしまうことです。たとえば…
「当社の方が、より使いやすい」
「当社の方が、ライバルよりも軽い」
実はこうした「比較級」で考えるのは間違いです。比較する時点で、ライバルと比較しているからです。
ここで考えるべきは「独自の価値」です。切り口は、色々とあります。
- 製品の特徴:洗剤のトップは少量でよく落ちます。iPhoneは独特の使いやすさがあるから選ばれます。このように顧客視点で見た「製品の強さ」は重要です
- サービスや体験:スタバは独特の居心地がよい空間とサービスで選ばれます
- 信頼性などのブランド:金鳥の蚊取り線香や花王は信頼のブランドです
大企業の場合、こうした独自の価値をしっかりと明確にした上で、10億円単位のお金を使って広告やTV CMを大々的に行い、カテゴリー内でのブランド認知率を上げたり、試供品を大量に配って体験率を上げたりすることもよくあります。
一方で、これとは違う戦い方もあります。それが集中戦略です。
認知率・体験率が低い消費者向け商品は、集中戦略を考える
認知率・体験率が低い消費者向け商品は、意外と数多くあります。大きく二つにわけて考えてみましょう。
① 既存市場の特定層に深く刺さる商品
アレルギー対応食品とか、無添加食品とか、敏感肌用のシャンプーを必要とするような人達向けの商品、あるいは赤ちゃん用の肌ケア商品とか、ペット用商品とか、アスリート用プロテインのように、セグメントが明確な商品が、これに相当します。
② まだ広く認知されていない新カテゴリーの商品
20年前、ルンバのようなロボット掃除機は「知る人ぞ知る」ともいうべき掃除機の新カテゴリーで、認知率も体験率も低い状態でした。
こうした商品の場合は、顧客のお悩みを徹底して理解した上で、そのお悩み解決に最適化して絞り込んだ集中戦略が必要です。
逆に大金をかけて認知率や体験率を上げようとしても、お客はそもそもその上位概念である「カテゴリー」を認知していないので、お金のムダです。
そして②のような「認知されていない新カテゴリー」のカテゴリーの場合は、市場が成長して大きくなり、商品が徐々に成熟化して、市場全体での認知率や体験率も徐々にアップしていきます。
ある程度の規模になって競合も増えてくると、差別化戦略に切り換えていくことになります。
たとえば炭酸水、豆乳、ノンアルビール、高機能柔軟剤、アルコール除菌スプレーなどは、10〜20年前までは認知率も体験率も低く「集中戦略」で売るブランドでしたが、今はスーパーで日用品として「差別化戦略」で売るブランドになっています。
このように日用品のブランドも、こうして集中戦略で育て上げた結果として生まれているのですね。
つまり、皆が知ってるような商品は『独自性』で勝負して、知らない商品(特定層や新市場)は『絞り込み』で勝負する、が正しい戦略なのです。
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2025年12月9日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。