三菱ケミカルグループが実施した希望退職募集に1,273人が応募した。黒字決算を維持しつつ進む「黒字リストラ」は、石油化学不振や事業構造転換の波を象徴している。世界的な化学大手の再編圧力が高まる中、日本企業の雇用構造の転換と個人のキャリア形成にも重い課題を突きつけている。
- 三菱ケミカルが11月に募集した希望退職に1,273人が応募した。対象約4,600人(満50歳以上・勤続3年以上、製造現場除く)の3割で、同社全従業員の1割弱に当たる規模となった。
- 製造現場の作業員を除く事務系・技術系などの従業員が対象で、全従業員約1万7千人のうち約4600人が希望退職の募集範囲となった。
- 退職は2026年2月末付で、退職一時金と特別加算金を支給する。
- この対応に伴う退職関連費用は約320億円。うち277億円はすでに2025年4〜9月期に計上済みで、残額も2026年3月期に非経常損失として計上する見込み。
- それでも業績見通しは据え置きで、2026年3月期は1250億円の最終黒字を見込む。
- 希望退職により2027年3月期以降は年間約160億円の労務費削減が見込まれる。
- 過去の合併で人員規模が拡大し、特に50代が厚い「いびつな年齢構成」が課題で、筑本学社長は「事業成長には人員の入れ替えが必要」と説明した。
- 三菱ケミカルグループは田辺三菱製薬の売却などで事業再編を進めており、化学事業と産業ガス事業へ集中。非中核子会社の整理も進める中、今回の希望退職は構造改革の一環となる。
- 本体の利益率は低く、グループ利益の多くは産業ガスの大陽日酸に依存する構造が続いている。
- 背景には、世界的な石油化学市況の悪化がある。中国勢の過剰生産で差別化が難しく、化学大手は2025年1〜9月に総額70億ドル(約1兆850億円超)の構造改革費用を計上。4年連続で通年1兆円超が見込まれ、世界規模でリストラが止まらない。
- 一方、希望退職では優秀な人材から辞めやすくなる懸念が強く、日本型雇用(JTC型)で育ったゼネラリストの再就職難、退職後の年収低下リスクも指摘されている。
三菱ケミカルの希望退職は、黒字下でも続く化学業界の構造不況と、企業の年齢構成是正の必要性を象徴している。短期的には費用負担が発生するものの、中長期の人件費圧縮と事業再編が狙いだ。一方で、退職者の再就職難や人材流出による組織力低下など課題も大きく、企業と個人の双方に「構造改革の痛み」が突きつけられつつある。
三菱ケミカル本社が入居するパレスビル 同社HPより