米国、ベネズエラ石油船を拿捕:「裏庭」の支配を強化中

米国がベネズエラ沖で石油タンカーを拿捕した。この一件は単なる制裁執行ではなく、トランプ政権が国家安全保障戦略(NSS)で掲げた「西半球での米国の優越(プレエミネンス)回復」という方針の一環として、アメリカが「裏庭(バックヤード)」への影響力を再び強化し始めている兆候ではないかとの見方が広がっている。

緊迫する事態の中でもトランプゴールドカードをPRするトランプ大統領 ホワイトハウスXより

FBI・沿岸警備隊がタンカーを拿捕 ボンディ司法長官が動画公開

ボンディ司法長官は X の投稿で、イラン向けに制裁対象の石油を運搬していたベネズエラ籍タンカーを、米軍・FBI・国土安全保障調査局などが拿捕する瞬間の映像を公開した。同投稿では、複数年にわたり制裁ネットワークに関与していた船舶に対し、「安全かつ確実に押収を完了した」と強調している。

トランプ氏も「最大規模の拿捕」と発言

トランプ大統領も記者団に対し、「ベネズエラ沖でタンカーを押収した。非常に大きなタンカーで、押収した中では史上最大だ」と認め、作戦の存在を公式に確認した。

この発言は、ベネズエラとの緊張をさらに高めるリスクを含んでおり、南米地域での米国の軍事的存在感を示す動きとして注目されている。

NSSが明確にした「モンロー主義の復活」

トランプ政権が最近公表した国家安全保障戦略(NSS)では、軽視されてきた西半球政策を転換し、「モンロー主義の再主張」を明確にしている。

NSSは次のように述べている。

米国は西半球への優越を回復し、域外勢力が軍事力・戦略資産を配置することを阻止する。これこそ「トランプ版モンロー主義」である。

つまり、ベネズエラやキューバに影響力を拡大する中国・ロシア・イランの排除を国家戦略として再定義した形だ。

ベネズエラの豊富な石油と「本当の狙い」疑惑

ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を誇る。そのため批判的な論者は、今回の軍事圧力の背景として「石油利権の確保」という思惑を指摘する。

コメディアンであるジョン・スチュアートは次のように皮肉を述べている。

イラク戦争と似た「建前」が並ぶが、今回はむしろ石油が目的であることを否定すらしていない。

「非介入主義」を掲げていたトランプ政権が、石油を要因とした軍事行動に踏み込む点への疑念は強い。

マドゥロ後を睨む「新政府構想」

米メディア報道によると、米政府はすでにマドゥロ政権崩壊後を想定した「デイ・アフター・プラン」の検討を開始している。米軍は数万人規模の部隊や空母打撃群をカリブ海に展開し、圧力を強めている最中だ。

しかし、もし軍事衝突や政権崩壊が起きれば、
・地域の不安定化
・反米武装勢力の増加
・NSSで描いた西半球戦略の破綻

といったリスクも指摘されている。

米国の「裏庭回帰」は新たな緊張の前兆か

トランプ政権が掲げる「モンロー主義の復活」と今回のタンカー拿捕は、米国がカリブ海・南米への影響力を再拡大する政策を本格化させていることを示すものだ。

しかしその一方で、
・軍事的関与の拡大
・ベネズエラ情勢の急激な不安定化
など、地域にも米国にも重大なリスクを伴う。

今回の拿捕劇は、西半球での「米国の優越」回復に向けた第一歩であると同時に、新たな対立の火種となる可能性も孕んでいる。