トランプ大統領は、ベネズエラに対する軍事的圧力を一段と強める姿勢を鮮明にしている。ホワイトハウスで記者団に対し、トランプ氏は「陸上でも開始する。かなり近いうちに始まるだろう」と述べ、ベネズエラへの陸上作戦の可能性を明言した。政権はすでに、同国の石油部門に関与する船舶や海運会社、さらにマドゥロ大統領の親族を標的とした新たな制裁措置を発動している。
こうした動きの背景には、単なるベネズエラ問題にとどまらない、より広範な地政学的構想があるとの見方が強い。とりわけ注目されているのが、「次のターゲットはキューバではないか」という観測だ。
トランプ大統領 ホワイトハウスXより
ニューヨーク・タイムズ紙の分析によれば、現在トランプ政権で国務長官兼国家安全保障担当大統領補佐官代行を務めるマルコ・ルビオ氏は、ベネズエラに対する軍事的圧力強化の主要な設計者である。表向きの目的はマドゥロ政権の排除だが、それは同時に、ルビオ氏が長年抱いてきた別の目標――キューバ体制に決定的な打撃を与えること――を実現する手段にもなり得るという。
ルビオ氏は2019年、NPRのインタビューで、ベネズエラ政権交代によってキューバが弱体化するのであれば、それは「歓迎すべき副産物だ」と語っている。「共産主義独裁にとって悪いことなら、私は支持する」との発言は、彼の基本的な姿勢を象徴している。さらに非公式の場では、ベネズエラとキューバの関係を断ち切ることが、ハバナ政権に「壊滅的な結果」をもたらすとの構想を繰り返し語っていたとされる。
この路線を強く後押ししているのが、トランプ氏と近い関係にあるサウスカロライナ州選出のリンゼー・グラハム上院議員だ。グラハム氏は、マドゥロ政権を「麻薬国家を運営する三流独裁者」と批判し、ベネズエラがロシアやヒズボラと連携し、麻薬取引や犯罪の温床になっていると主張する。そのうえで、「マドゥロ政権が終われば、次はキューバに焦点を当てるべきだ」と明言し、キューバを「テロ支援国家に指定された共産主義独裁国家であり、ロシアの長年の顧客国家だ」と位置づけている。
政権内部でも、キューバへの強硬姿勢は共有されつつある。ランドー国務副長官は、NATOとEUの関係を批判する文脈の中で、欧州諸国が「共産主義キューバを支持している」ことを米国の安全保障に反する行為として名指しで非難した。これは、対キューバ政策を単なる中南米問題ではなく、「西洋文明を守る戦い」の一環として位置づける政権の世界観を示している。
ベネズエラへの陸上攻撃が現実となれば、それは地域秩序に大きな衝撃を与えるだけでなく、冷戦後も生き残ってきたキューバ体制に対する圧力を決定的に強める可能性がある。トランプ政権の次の一手が、カリブ海の島国キューバに向かうのか――その行方は、米州全体の安定を左右する重大な分岐点となりそうだ。