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今回はマニア向け。
以前「エアコン2027年問題」について書いたが、「既に温暖化対策としての冷媒規制でエアコンの値段がアップしているはずではないか?」との指摘を受けたので、計算してみることにした。
エアコン「2027年問題」は一人暮らし若者への実質大増税なのか
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地球温暖化対策の中でも、一般にはあまり意識されていないが、ほぼすべての国民が日常的に負担している政策がある。それがエアコンなどに用いられる冷媒の規制である。
冷媒はかつてオゾン層保護の観点からCFC・HCFCが廃止され、HFCへと移行した。ところがHFCは温暖化係数(GWP)が非常に高いため、現在はさらに低GWP冷媒(R32など)への転換が進められている。これはモントリオール議定書キガリ改正に基づく、国際的な温暖化対策の一環である。
本稿では、この冷媒規制が、実際にはどれほどのコストを国民に負担させ、どれほどのCO₂削減効果を持つのか、定量的な検討を行う。
具体的には、若者単身世帯のワンルーム用エアコンという、最も身近で小規模なケースを例に、冷媒規制の費用対効果を計算する。
1. 評価の枠組み
以下では、冷媒規制がなければ発生しなかったコスト=純増コストについて検討対象とする。
2. 想定するエアコンと冷媒条件
【対象機器】
- 家庭用エアコン(2.2kW級)
- ワンルーム(若者単身世帯)想定
- 年間使用時間:約800〜1,000時間
【冷媒条件】
- 旧冷媒:R410A(GWP=2,088)
- 新冷媒:R32(GWP=675)
【冷媒充填量】
- 約0.6 kg(小型機の実勢値)
3. CO₂削減量の計算
冷媒規制によるCO₂削減(正確にいえばCO₂等価量削減)は、電力消費ではなく冷媒漏洩・廃棄時排出の回避である。
【前提】
- 機器寿命:10年
- 生涯で大気放出される割合(漏洩+回収ロス):25%
【計算】
| 項目 | 数値 |
| 冷媒量 | 0.6 kg |
| GWP差(R410A−R32) | 1,413 |
| 生涯排出率 | 25% |
| 削減量 | 0.6 × 1,413 × 0.25 ≒ 212 kg-CO₂ |
つまり1台あたり約0.21トンのCO₂削減に相当する。
4. 冷媒規制による「純増コスト」の積算
次に、冷媒規制がなければ発生しなかった純増コストを整理する。
【純増コストの考え方】
- 冷媒を変えたことにより必然的に必要になったもののみ
- 冷媒を変更しなくても必要だった費用については除外
【純増コスト内訳(1台あたり)】
| 区分 | 内容 | 純増コスト(円) |
| 冷媒単価差 | R410A → R32 | ~1,000 |
| 安全対策 | 可燃性冷媒対応(設計・部材) | 5,000~12,000 |
| 研究開発・再設計 | 冷媒変更に伴う再設計 | 1,000~3,000 |
| 規制・認証(増分のみ) | 追加試験・再認証 | ~500 |
| 施工・廃棄等(純増分) | 講習・管理厳格化等 | 1,000~1,500 |
| 合計 | 8,500~18,000 |
以上から、ワンルーム用エアコンでも、1台あたり約1万円かそれ以上の純増コストが発生していると考えるのが妥当である。
5. CO₂削減1トンあたりのコスト
以上を踏まえ、冷媒規制の費用対効果を計算する。
| 想定 | 数値 |
| 純増コスト | 8,500~18,000円 |
| CO₂削減量 | 約0.21 t |
| 削減単価 | 約40,000~85,000円/t-CO₂ |
6. 結論 冷媒規制のコスト
ワンルーム用エアコンについての冷媒規制のコストは、1台あたり8500円から18000円、CO2削減単価としては4〜8.5万円/t-CO₂と試算された。後者は太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーよりはマシかもしれないが、決して安いとは言えない。
このように高いコストになる理由であるが、冷媒単価差は比較的小さくても、旧冷媒であるR410Aが不燃性であるのに対して、新冷媒であるR32が微燃性であるために、防災の観点からの設計・部材変更、規制強化、施工・廃棄管理強化が必要なためである。
なおこの冷媒規制はモントリオール議定書キガリ改正に基づいて国際的に進められているが、中国を始め開発途上国では先進国よりも遅いスケジュールでの規制の計画となっている。
冷媒規制によるコスト増分は決して無視できるような水準ではないことが今回の試算で示唆された。さらに詳細なコストの検証が必要である。
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