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親が死んだ後で「知らなかった」では遅い。遺品整理をしながら、ふと思った。もし母が都内に不動産を持っていたら、自分は何を確認していただろう。恥ずかしながら、何も知らなかったと思う。
相続の話なんて、「縁起でもない」と避けてきた。多くの日本人がそうだろう。でも、それで破滅する家族を、この仕事で何度も見てきた。
今回紹介するのは、不動産相続アーキテクツ代表・高橋大樹さんの著書「あなたの実家、どうする?」(WAVE出版)だ。読んで背筋が寒くなった。他人事じゃない。
仲良し三兄弟が絶縁するまで
Aさんは成功者だった。念願の田園調布に邸宅を構え、3人の息子に平等に相続させるつもりだった。周到な計画、のはずだった。
ところが。
田園調布には「165平米未満に分割してはならない」という住民協定がある。つまり、3等分は不可能。誰も土地全体を買い取れる資金はない。
長男が言った。「売るしかない」
次男が怒鳴った。「親父の家を他人に渡すのか」
三男は黙っていた。
で、どうなったか。
幼少期からの確執が噴出した。表面上の冷静さなんて、あっという間に崩壊する。最終的に弁護士を立てる泥沼の争い。3人は完全に絶縁した。
仲が良かったはずの兄弟が、だ。
いや、むしろ仲が良かったからこそ、なのかもしれない。期待があった分、裏切られた感が強い。愛情の裏返し——よく言うが、遺産相続ほどそれが露骨に出る場面はない。
査定3000万円が1000万円に
もう一つの事例。Bさんは都内30坪の土地を相続した。駅徒歩10分、査定3000万円。まあまあだ、と思った。住宅ローンの返済、子どもの教育費――頭の中で計算していた。
結果、査定1000万円。
理由? 前の「道路」が、建築基準法上の道路じゃなかった。見た目は普通の道路だ。車も通る。宅配も来る。でも法律上はダメ。
既存の建物には住めるが、壊したら新築は建てられない。それだけで価値は3分の1だ。
これ、役所で確認すれば分かる話だ。都市計画課に行って「接道義務を果たしているか」と聞くだけ。たったそれだけで、2000万円の差が事前に分かった。
でも誰もやらない。というか、知らない。
専門家を呼べ。それだけだ。結論は単純だ。
相続トラブルは、家族だけで解決できない。感情が入りすぎる。時間が経つほど悪化する。税理士、弁護士、不動産鑑定士——「この分け方は公正だ」という客観的な保証が必要なんだ。
- 土地が建築基準法上の道路に面しているか(役所で聞く)
- 地域の住民協定や条例(田園調布だけじゃない、高級住宅地は要注意)
- 市場価値の正確な把握(昭和の郊外物件は危険信号)
親が元気なうちに、冷静に話し合おう。感情的にならずに、数字で語ろう。それだけが、家族を守る方法だ。も年末に家族会議はどうだろうか? 気まずいけど、やってみよう。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)