外国人の不動産取得はどう変わるのか:透明化が進む日本不動産市場の行方

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(前回:外国人不動産取得はどう変わるか:政府4政策が市場実務に与える影響

前々回では、外国人による不動産取得がなぜ問題視されるようになったのかを整理し、前回は、国籍把握、短期売買監視、外為法、所有者情報の透明化といった、政府が進める政策の方向性を確認した。

最終回となる本稿では、こうした動きが日本の不動産市場にどのような影響を与え得るのか、そして 不動産オーナーや投資家はこの変化をどう受け止めるべきか を、実務の視点から考えてみたい。

政府が問題視している点はどこにあるのか

外国人による不動産取得を巡る議論では、都心マンションの価格高騰や短期転売が注目されがちだが、政府が問題視している点は、より複合的である。整理すると、主に次の点に集約できる。

  • 実需を伴わない短期売買による価格形成の歪み
  • 資金の出所や実質所有者が不明確な取引の増加
  • 防衛施設や重要インフラ周辺、離島、水源地など、安全保障上重要な土地における取引の監視

第3点目は重要土地等調査法の施行当初からの目的である。一方で、第1点目、第2点目については市場の健全性を損なう行為 に関するものであり、外国人であること自体が問題とされているわけではない点には留意が必要だろう。

市場への影響:一部では価格調整の可能性も

こうした透明化や投機的取引への警戒が進むことで、一部の市場では価格調整が生じる可能性 は否定できない。特に、短期転売を前提とした取引が多かったエリアや、外国人投資家の比率が高かった都心部の新築・築浅マンションなどでは、取引量の減少や投資家心理の変化により、価格が調整局面に入ることも考えられる。

もっとも、これは市場全体が急速に冷え込むというよりも、投機色の強かった一部領域での選別的な調整と捉えるのが現実的だろう。実需に基づく取引や、事業性・収益性を重視した不動産における取引価格まで、一様に影響を受けるとは考えにくい。

金融機関の融資姿勢はどう変わるのか

政府が直接、金融機関の融資を規制する可能性は高くないと思われる。しかし実務上は、金融機関が自主的にリスク評価を厳格化する動き は十分に想定される。

具体的には、

  • 短期売買が多いエリア
  • 外国法人・SPVによる取得
  • 実質所有者の確認が難しい取引

に対して、融資条件の見直しや慎重な審査が行われる可能性がある。これは、かつての「総量規制」のような一律の締め付けではなく、市場の質に応じた選別 という形で進む点が特徴だ。

不動産オーナー・投資家が意識すべき視点

こうした環境変化の中で、不動産オーナーや投資家が意識すべき点は明確である。それは、個別の価格動向だけでなく、保有する不動産全体をどのように位置づけ、活用していくのか という視点である。

短期的な値動きに一喜一憂するのではなく、

  • 利用目的は何か
  • 中長期で安定した収益が見込めるか
  • 事業や生活との関係性はどうか

といった点を整理しながら、持続性のある不動産との向き合い方が、これまで以上に求められるだろう。

外国人投資家から見た「国際標準化」という評価

一方、外国人投資家の視点に立てば、今回の一連の動きは必ずしも「締め付け」とは映らない可能性もある。実質所有者の把握や取引の透明性確保は、欧米諸国ではすでに一般的な枠組みであり、日本の不動産取引が 国際的な標準に近づく過程 と捉えることもできる。

その結果、短期的・投機的な資金は減少するかもしれないが、過度な価格高騰が抑制され、実需や事業性に基づいた取引が中心となるのであれば、市場の安定性が高まることも期待される。

おわりに:市場の成熟に向けた過渡期として

外国人による不動産取得を巡る議論は、感情論や排外的な主張に流れやすいテーマである。

しかし、実務の視点から見れば、重要なのは国籍そのものではなく、取引の透明性と、不動産が持つ本来の利用価値・事業価値 である。

今回の政策は、市場を一気に変える万能薬ではないかもしれない。また、すべてのリスクを排除できるものでもないかもしれない。

それでも、取引の透明性を高め、投機と実需を緩やかに分けていくことで、日本の不動産市場がより成熟した市場へと移行していく——その過渡期に私たちは立っていると考えるべきだろう。