首相官邸の幹部が「日本は核兵器を保有すべきだ」と個人的見解を述べた――。
この一文だけを切り取った見出しが、必要以上に世間をざわつかせています。
しかし、記事を冷静に読めば明らかなとおり、政権内で具体的な議論が進んでいるわけではない。
本人もあくまで「個人の意見」であり、現実的な制約としてNPT体制や非核三原則の壁を挙げ、「実現は難しい」と述べています。
つまりこれは、安全保障環境が厳しさを増す中での、思考実験に近い問題提起にすぎません。
中国の核戦力増強、ロシアの核威嚇、北朝鮮の核開発――。これらを前に、米国の拡大抑止の信頼性をどう見るか、という問いを投げかけたものです。
本来議論すべきは「是非」ではなく「報じ方」
にもかかわらず、「官邸幹部が核武装主張」「日本も核兵器を持つべきだと発言」など、センセーショナルな見出しが躍る。
まるで政府が核保有へと舵を切ったかのような印象操作です。これは事実の誇張であり、読者の不安を煽る報道姿勢と言わざるを得ません。
さらに問題なのは、いわゆる「オフレコ破り」に近い手法が疑われる点です。
政策助言の立場にある人物が、議論の前提や留保条件を含めて「オフレコの場で」述べた見解を、前後関係を削ぎ落とした形で報じる――。これはメディアとしては信義則の問題です。
下品なのは「意見」ではなく「煽り」
今回の発言は、冷静で、留保条件も明確な、個人的意見表明でした。それを意図的に刺激的に切り取り、炎上させる報道姿勢は、端的に言って下品です。
政治家や政策関係者が、率直な問題提起をすれば袋叩きにされる。そんな空気の中で、どうやって日本の安全保障を真剣に議論できるのでしょうか。
問われているのは、「核を持つか否か」以前に、メディアが社会に対して、どれだけ誠実であろうとしているのかという点です。
冷静な議論を、冷静に伝える。
その最低限の姿勢を、今こそ報道機関には求めたいと思います。
日本テレビNEWS NNNより(編集部)
編集部より:この記事は、前参議院議員・音喜多駿氏のブログ2025年12月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。