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東京・赤坂の高級個室サウナで夫婦が死亡した痛ましい事故は、サウナ安全設計の盲点を浮き彫りにした。L字型の木製ドアノブが外れ、二人は室内に閉じ込められた可能性が高い。
では、サウナ発祥の地フィンランドをはじめ、各国ではどのような基準が定められているのか。フィンランドでは人口550万人に対し330万ものサウナが存在し、3人に1人が日常的に利用している※1)。自動車よりもサウナの方が多いこの長い歴史の中で培われた安全思想は明確だ。
ドアは必ず外側に開き、内側からは押すだけで脱出できる構造でなければならない。回転式のドアノブは、緊急時の脱出を遅らせる危険な存在として避けられている。
現代のフィンランドでは、安全性を考慮してガラスドアが主流となり、木製の取っ手であっても単純なプルハンドル形式が採用されている。
北米でも同様の基準が徹底されている。推奨されるのは「ボールキャッチラッチ」と呼ばれる機構で、内側から押すだけでラッチが解放され、ドアがロックして閉まることがない設計だ。
外側にはプルハンドルを設置し、内側にはハンドルすら不要、または壁掛けのグラブハンドルのみという構成が一般的である。
日本の消防法と建築基準法も、実は厳格な基準を定めている。サウナドアは「外開き」で「乙種防火戸以上の性能」を持ち、「外から中が見える窓」を備えなければならない。さらに、一般的な大浴場のサウナでは、押し戸や横棒タイプのハンドルが採用され、力を加えればすぐ開く構造が標準だ。
ところが完全個室型のプライベートサウナでは、プライバシー確保を優先し、通常の部屋に近い構造のドアが採用されるケースがある。デザイン性や高級感を追求するあまり、安全が軽視されてしまったのではないかと推測される。
世界共通の教訓は明確だ。サウナのドアに回転式ドアノブは不要であり、むしろ危険である。必要なのは「内側から押すだけで開く、外開きドア」という単純な原則だ。高温、密閉、緊急時―この三つの条件が重なるサウナにおいて、一秒を争う脱出の妨げとなるドアノブは、命取りになりかねない。
サウナブームに沸く日本だからこそ、フィンランドから世界に広がった安全思想を今一度見つめ直すべきだろう。この当たり前の優先順位を忘れてはならない。
※1)UNESCO Intangible Cultural Heritage, “Sauna culture in Finland”
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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