「仕事できればコミュ障でOK」にならない理由

黒坂岳央です。

「仕事さえできれば、多少コミュニケーションが不得意でも許されるべきだ」という意見をよく見る。さらに「米国では技術力があればコミュ障でも許されるのに、日本はコミュ力ばかりみて仕事に必要なスキルの本質を見誤っている」と続くことが多い。

本当だろうか?個人的にはNOである。

※本稿では「スキル不足を性格にすり替える人」を端的かつ伝わりやすくするため便宜上「コミュ障」という表記を用いる。そこに医学的な意味はないことを最初に明記しておきたい。

monzenmachi/iStock

コミュ力にまつわる多くの誤解

プライベートの場におけるコミュ力とは「面白いことをいって周囲を笑わせる」とか「初対面の相手でも愛想よく振る舞う」といった人的魅力の事を言う。だがビジネスにおけるコミュ力は多くの場合、誤解されている事が多い。

1つ目はコミュ力とは性格ではなくスキルという点である。「自分はそういうキャラじゃないから」と能力に蓋をして一切、改善の努力をしないのはハッキリいって怠慢である。たとえば性格が「内向性」でも、相手と円滑なコミュニケーションを取るスキルは両立し、多くの人がそうしている。

仮に性格が無口で雑談が苦手でも、ホウレンソウが出来ないわけではない。むしろ、引っ込み思案の性格の人こそきっちりホウレンソウのスキルを磨くことで、「あの人は物静かだが、しっかり報告が来るから信用できる。きっと、真面目できっちりした性格なのだろう」と本来の性格をポジティブに解釈される事も十分ありえる。

「自分はコミュ障だから」と開き直り、スキル不足を性格という固定値の問題にすり替えて正当化しようとするのは悪手だ。ビジネスで求められるのは「愛想の良さ」より「情報の流動性」、ここは完全にテンプレ確立されている技術なので、誰でも努力で獲得できるためだ。

コミュ障が嫌われる理由

ハッキリいう。ビジネスコミュニケーションが低い人は単に人事評価が悪くなるだけでなく、周囲からも敬遠される。

その理由は周囲に迷惑がかかるからだ。「自分は言われた仕事はしている」と自負する人でも、自分の作業量しか見えておらず、上司や同僚に「フォローコスト」を知らずに支払わせている事が多い。

たとえば本人が「面倒だから」とホウレンソウを怠れば、報告が不十分であることを不安に感じたマネージャーが状況確認に時間を割くことになる。また、意図の読み違えにより、チーム全体に手戻りが発生してしまう。極めつけは本人にその自覚がないことも多い。

米・ガードナー社の行った調査によれば、企業内エラーの約70%はコミュニケーション不全に起因すると言われている。本人が100の成果を出していても、その周囲で50の確認コストや30のリスクヘッジコストを発生させていれば、その人の実際の利益はわずか20である。

努力すれば改善できる要素を「生まれつきの能力だから仕方がないでしょ」と不貞腐れ、周囲に負担を押し付けていることが敬遠される原因となってしまうのだ。

「技術力があればコミュ障でもOK」は本当?

冒頭の疑問に戻ろう。すなわち、「卓越した技術力があれば、コミュ障でも積極雇用して良い仕事をしてもらうべきだ。日本企業はコミュ力しか見ない」という意見である。

まず、コミュ力は「盛り上げ力」とか「仲良しごっこ」の道具ではない。売上と利益に直結する武器だ。

取引先の前で表情が硬く、意思疎通がスムーズでない担当者は、それだけで力量を過小評価され、会社全体の信頼が沈む。相手から信用が得られなければ、相見積もりや値引き交渉の材料にされ、粗利が削られるのだ。つまり、コミュ障とは企業にとってのコストである(しかも本人も含めて誰も得しない)。

さらに問題は経営資源の中で最も高価な「マネージャーの時間」を削る。ホウレンソウができない部下の指導やフォローにマネージャーの時間が奪われることは、会社にとってお金で買えない「時間」という経営資源の消耗になる。

最近はリモートワークが増えているが、このワークスタイルは双方向の円滑な情報共有が前提となっている。そこでメンバーにコミュ障が交じるとチーム全体のパフォーマンスは著しく低下する。結果、「リモートワークは生産性低いから出社しろ」という号令につながる。

コミュ障コストを挽回出来る人は少ない

これほど大きなコストを支払う「コミュ障」は多少、平均より少し作業が早いといった要素程度ではまったく挽回できない。

本人は「自分は他の人より作業が早い。だから多めに見ろ」と思っているかもしれないが、トータルコスト、粗利を管理するマネージャーからは「せめてその巨額のコストを上回るような、目を見張るパフォーマンスを出してから言ってくれ」となるわけだ。

そもそも、シリコンバレーなどのトップ技術者ほど、自分の技術を社会に実装するために、周囲を巻き込むコミュニケーションを極めて重視している。 もしコミュニケーションの欠如が許されるとしたら、それは「その人がいないとプロジェクトが進まない」というレベルの代替不可能な秀才のみである。

会社は基本的なビジネスマナーは教えるが、相手の意図を察し、最適な形で情報を渡す「生きたコミュニケーション」までは手取り足取り教えない。それは仕事を通じて自ら学習し、獲得すべきスキルだからだ。ビジネスパーソンの格差はこの「自律的に学ぶか?それとも開き直って放置するか?」でついてしまう。

コミュニケーション能力は、あれば加点、なければ致命的な減点となる。技術を磨くのと同じなのだ。

2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。