(前回:佐倉市観光事業になぜマーケティングは組み込まれなかったのか④)
なぜ行政の計画からマーケティングは消えていくのか
前稿では、佐倉市の計画段階において、三つの問い——①プロセス、②効果、③成立条件——が同じ重さで扱われていなかったことを確認した。
本稿では、この構造が佐倉市固有の問題ではなく、日本の地方自治体に広く共通する意思決定メカニズムの帰結であることを示していく。
行政組織が優先する三つの論理
自治体の政策形成過程には、常に三つの論理が働いている。
第一に、制度の論理である。
法令、要綱、計画策定手続き、予算編成といった制度枠組みを適切に踏むことが、行政組織にとって最優先の課題となる。この枠組みに適合しているかどうかが、まず問われる。
第二に、説明の論理である。
議会、市民、監査、国や県に対して、事業の必要性や妥当性を説明できることが重視される。その際、抽象的な目的や理念は説明資源として機能しやすい。
第三に、調整の論理である。
複数部局、関係団体、地域住民、民間事業者との合意形成を円滑に進めることが求められる。摩擦の大きい論点は、あえて語らないか、あるいは可能な限り後段へと送られる傾向を持つ。
マーケティングが後景化する構造
この三つの論理の中で、マーケティングや生活環境への配慮は、きわめて扱いにくい領域に置かれる。
マーケティングは不確実性が高く、数値化が難しく、しかも部局横断的な調整を必要とする。生活環境への影響もまた、予測が難しく、利害対立を生みやすい。
結果として、これらの論点は、
- 制度の論理からは「必須項目」に見えにくく、
- 説明の論理からは「抽象語」で代替されやすく、
- 調整の論理からは「極力語らない」あるいは「後で対応する課題」として先送りされやすい。
こうして、計画の初期設計から最も重要な成立条件が抜け落ちるという現象が、制度的に再生産される。
佐倉市の事例が示す一般性
佐倉市のふるさと広場拡張整備事業で見えてきた構造は、決して例外ではない。多くの自治体観光事業が、同様の過程をたどっている。
事業の理念は語られ、手続きは整えられ、予算は確保される。
しかし、誰が、どのように来て、当該行政にどの程度の利益をもたらすのか、地域の生活とどう両立させるのか、という核心部分が後段へと押しやられる。
その結果、計画は「完成」しているにもかかわらず、運用段階で初めて矛盾が噴出する。
自治体観光政策に残された課題
この構造の中で、自治体観光政策が抱える課題は明確である。
- マーケティングと生活環境を、計画初期から中核に据える制度設計
- 効果測定を事後評価ではなく、事前設計の段階で組み込む手法
- 議会の機能を「後出しチェック」ではなく「設計修正の装置」として位置づける運用
これらは、佐倉市だけでなく、日本の地方自治体全体に突きつけられた課題である。
結びにかえて
ふるさと広場拡張整備事業をめぐる議会のやり取りは、一つの自治体の個別事例であると同時に、自治体政策が抱える構造的課題を映し出す鏡でもあった。
本連載が示してきたのは、成功か失敗かではなく、なぜ同じ構造が繰り返されるのかという問いである。
その問いに向き合わない限り、自治体の観光政策は何度でも同じ壁に突き当たるだろう。