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昨年12月の拙稿「高市答弁への中国過剰反応の裏にある米国の25年版『国家安全保障戦略』」で筆者は、高市総理の「台湾有事」答弁に係る米国の戦略を検証すべく、その「アジア」の項について書いた。
同拙稿では、小見出しを「『経済的未来を勝ち取る』について・・・」「この辺りから『軍事的対立を防止せよ』に関連してゆく・・」「軍事的脅威の抑止・・・」の順に付けて、ここ30年以上にわたる米国の対中国政策の誤りの指摘から始まり、「米国に危害を与える行為を終わらせる」と「中国を名指しせず」に書き、「軍事的脅威の抑止」を行う安保政策の要点を書いた。
その「軍事的脅威の抑止」のポイントは、①敵対勢力を抑止し第一列島線を防衛するために必要な能力に置かれるべきであること、②台湾やオーストラリアとの交渉においては、防衛費増額に関する断固たる姿勢を堅持すること、③インド太平洋地域における警戒態勢の維持、防衛産業基盤の再構築、自国および同盟国・パートナー国による軍事投資の拡大、そして長期的な経済・技術競争での優位性確保が不可欠であること、にあった。
そこで今回のベネズエラ攻撃につてのトランプ大統領の記者会見を聞くと、米国の25年版「国家安全保障戦略」」で「モンロー主義」を強調しているの「西半球」の項に記述してあることが、今回の攻撃を予告していることが判る。この「西半球」の項では、「アジア」の項ほどには軍事面で詳細な記述をしていない。が、むしろそのことは、ベネズエラへの作戦が深く進行していたことを裏付けていまいか。
今回の作戦がかなり長い間計画され、様々な布石によって警告されていたことは、一連の麻薬密輸船攻撃のノーベル平和賞のマチャド脱出への関与によっても改めて認識される。そして、このベネズエラへの奇襲攻撃とマドゥロ大統領の拘束は、中国、北朝鮮、そしてイランなどの指導者を震え上がらせるのに十分過ぎる効果を果たしていることだろう。
米国の25年版「国家安全保障戦略」
「西半球:モンロー主義へのトランプの必然的帰結西半球(Western Hemisphere:The Trump Corollary to the Monroe Doctrine)」のAI翻訳による和訳全文。
A. 西半球: モンロー主義へのトランプの必然的帰結
長年の無視を経て、アメリカはモンロー主義を再主張し、西半球におけるアメリカの優越性を回復し、我が国と地域全体の重要な地理的アクセスを守るために実施します。我々は、半球外の競合者が我々の半球に部隊やその他の脅威となる能力を配置したり、戦略的に重要な資産を所有・支配したりする能力を否定します。このモンロー主義の「トランプの必然的帰結“Trump Corollary”」は、アメリカの安全保障上の利益に沿った、常識的かつ強力なアメリカの力と優先事項の回復です。
西半球に対する私たちの目標は「積極的に関与し、そして拡大するEnlist and Expand」と要約できます。私たちは、移民の抑制、麻薬の流入阻止、陸海の安定と安全を強化するために、半球の既成の友好国を巻き込みます。新たなパートナーを育成・強化することで拡大し、我が国の経済的・安全保障上の選択肢としての魅力を高めていきます。
積極的関与(Enlist)
アメリカの政策は、地域の国境を越えても許容可能な安定を創出できる地域のチャンピオンの獲得に焦点を当てるべきです。これらの国々は、違法で不安定な移民を阻止し、カルテルや近岸製造業を無力化し、地域の民間経済を発展させるなど、さまざまな役割を担うでしょう。地域の政府、政党、運動に対して、私たちの原則と戦略に広く一致する者を報い、奨励します。しかし、異なる視点を持ちながらも利益を共有し、協力したい政府を見落としてはなりません。
アメリカは西半球における軍事的存在を再考しなければなりません。これは4つの明白な意味を持ちます:
- 我々の半球における緊急の脅威、特にこの戦略で特定された任務に対応するため、世界的な軍事プレゼンスの再調整を行い、近年アメリカの国家安全保障にとって相対的に重要性が低下した戦域から離脱すること;
- 海上航路の管理、違法およびその他の望ましくない移民の阻止、人身取引や麻薬取引の削減、危機時の主要な通過ルートの管理のためのより適切な沿岸警備隊および海軍の存在;
- 国境の警備とカルテルの打倒のための標的型配備、必要に応じて過去数十年にわたる失敗した法執行のみの戦略に代わる致死力の使用を含む;そして
- 戦略的に重要な場所でのアクセスの確立または拡大すること
アメリカは自国の経済と産業を強化するために商業外交を優先し、関税と相互貿易協定を強力な手段として活用します。目標は、パートナー諸国が国内経済を発展させ、経済的に強く洗練された西半球がアメリカの商業と投資にとってますます魅力的な市場となることです。
この半球における重要なサプライチェーンの強化は、依存を減らし、アメリカの経済の回復力を高めるでしょう。アメリカとパートナーの間に築かれた連携は双方に利益をもたらす一方で、非半球圏の競合者が地域で影響力を拡大することを難しくします。商業外交を優先しつつも、武器販売から情報共有、合同演習に至るまで、安全保障パートナーシップの強化にも取り組んでいきます。
拡大(Expand)
現在、アメリカが強い関係を持つ国々とのパートナーシップを深めるにあたり、地域でのネットワーク拡大を目指さなければなりません。私たちは他国に私たちを第一選択のパートナーとして見てもらいたいと考えており、(様々な手段を使って)彼らの他国との協力を抑制します。西半球には多くの戦略的資源があり、アメリカは地域の同盟国と協力して開発し、隣国や自国をより繁栄させるべきです。
国家安全保障会議は直ちに、情報機関の分析部門の支援を受けて、西半球の戦略的拠点や資源を特定し、それらの保護と地域パートナーとの共同開発を目指して、各機関への強力な省庁間プロセスを開始します。非半球圏の競合者たちは、現在の経済的不利な側面と、将来的に戦略的に不利な影響を及ぼす可能性のある形で、我々の半球に大きな進出を果たしています。これらの侵入を深刻な反発なしに許すことは、近年のアメリカの大きな戦略的誤りの一つです。
アメリカ合衆国は、我々の安全と繁栄の条件として西半球で卓越しなければなりません。そうすることで、地域で必要な場所と時に自信を持って自らを主張できるのです。
我々の同盟条件、そしていかなる援助の提供条件も、軍事施設、港湾、重要インフラの支配から戦略資産の購入に至るまで、敵対的な外部勢力の縮小に依存しなければなりません。一部の外国の影響は、特定のラテンアメリカ政府と特定の外国勢力との政治的連携を考えると、逆戻しが難しいでしょう。しかし、多くの政府はイデオロギー的に外国勢力と一致せず、低コストや規制障壁の少なさなど他の理由で外国と取引することに惹かれています。
アメリカは、スパイ活動、サイバーセキュリティ、債務の罠など、いわゆる「低コスト」の対外援助に隠された多くのコストがいかに内包されているかを具体的に示すことで、西半球における外部の影響を縮小することに成功を収めました。これらの取り組みを加速させるべきであり、米国の金融や技術の影響力を利用して、各国にこうした支援を拒否させる仕組みも含まれます。
西半球、そして世界中のどこでも、アメリカは長期的にはアメリカの製品、サービス、技術の方がはるかに良い買い物であることを明確にすべきです。なぜならそれらはより高品質であり、他国の支援のような条件が伴わないからです。
とはいえ、私たちは承認と許認可を迅速化するために自社のシステムを改革し、再び自分たちを第一選択のパートナーにします。すべての国が直面すべき選択は、アメリカ主導の主権国家と自由経済の世界に生きるか、それとも世界の反対側の国々の影響を受ける並行する世界に生きるかです。この地域で働くすべての米国関係者は、有害な外部の影響の全貌を把握しつつ、同時にパートナー国に圧力をかけ、我々の半球を守るためのインセンティブを提供しなければなりません。
半球を成功裏に守るためには、米国政府とアメリカの民間セクターとのより緊密な協力も必要です。すべての大使館は、特に主要な政府契約など、自国の主要なビジネスチャンスを把握しておく必要があります。これらの国々と関わるすべての米国政府関係者は、アメリカ企業が競争し成功できるよう支援することの一部であることを理解しなければなりません。
米国政府は、この地域における米国企業の戦略的買収および投資機会を特定し、これらの機会を国務省、陸軍省、エネルギー省を含むすべての米国政府資金調達プログラムで評価可能に提示します。中小企業庁(SBA)、国際開発金融公社(IPC)、輸出入銀行、そしてミレニアム・チャレンジ・コーポレーション。また、地域政府や企業と連携し、拡張可能で強靭なエネルギーインフラを構築し、重要な鉱物アクセスに投資し、アメリカン19の暗号化とセキュリティの可能性を最大限に活かす既存および将来のサイバー通信ネットワークを強化するべきです。
前述の米国政府機関は、海外で米国製品を購入する費用の一部を賄うために使われるべきです。米国はまた、米国企業に不利な対象課税、不当な規制、収用といった措置に抵抗し、撤回しなければなりません。特に私たちに最も依存し、最も影響力のある国々との協定条件は、我々の企業にとって単独調達契約でなければなりません。同時に、地域でインフラを建設する外国企業を排除するためにあらゆる努力をすべきです。
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トランプ政権の今般の行動は米国内外、そしてベネズエラ国内で様々な議論を呼び起こすだろう。が、ここ10年で全人口の25%に当たる700万人が国外に脱出している国柄だから、多くのベネズエラ国民はおそらく歓迎していよう。トランプ会見を聞く限り、米国は麻薬密輸阻止に係る国内法に基づいて、ベネズエラのトップを拘束し、ニューヨークかマイアミで裁判にかける様である。
筆者はトランプ氏が、米国がこれまで行ってきたベネズエラの石油資源への多額の投資に言及するのを聞いて、日本による「対華二十一ヵ条要求」第三号の「漢冶萍公司に関する件」を思い出した。このことを含め、筆者はトランプ氏の今回の行動を擁護する。
漢冶萍(かんやひょう)公司は揚子江中流の漢陽市にある製鉄所で、社名は優良な鉄鉱山の大治と大炭田の萍郷の三つの地名に由来する。1898年に設立されたが、萍郷で石炭が見つかるまでは日本の石炭を運んで製鉄していた。日本の出資は辛亥革命まで10年余りで興業銀行300万円、三井物産100万円、横浜正金銀行1000万円の巨額に上り、貸付金総額は政府分3300万円を含め約3500万円に達した。が、辛亥革命後に中国政府が同公司を接収した結果、事業が行えないほど破壊され略奪され、国有化されようとしていた。日本政府は投資案件を保護するため、これの合弁化を要求した。