先日、某インフルエンサーが「健診を受けない人には罰金を科すべき」とネット記事で主張していました(あえてリンクは張りません)。
今回は、この主張が科学的に妥当なものなのかについて考察してみます。
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「健診を受けない人は将来的に病状が悪化し、その分医療費が増える。すると保険財政が圧迫され、健診をきちんと受けている人の保険料負担が増えてしまう。したがって、健診未受診者には罰金を科すべきだ」というロジックのようです。
ここで問題となるのは、
「予防医学をやれば社会保障費が下がる」
という前提が、科学的に妥当かどうかということです。この前提が不確かなものであれば、罰金は妥当ではないということになります。
この問題に関しては、2018~2019年頃に、ネットや医学雑誌で論考が複数発表されました。
1. 予防対策は医療費を削減できない(康永 秀生、2018)
2. 「予防医療で医療費を削減できる」は間違いだ(権丈 善一、2018)
3. 健康寿命が延びたら国の医療費を削減できるの?(村松 容子、2019)
4. 健康は義務ではない 「予防医療」を医療費抑制の道具にするな(岩永直子、二木立、2019)
意外なことに、否定的な見解の論考の方が多かったのです。もちろん、「予防医学をやれば社会保障費が下がる」と主張する研究者もいるようです。専門家でも見解が分かれているのです。
私もこの頃、ネット論考を発表しています。実際には、医療費だけでなく、介護費や年金の増大も問題となります。したがって、それらを含めた社会保障費という観点で論じています。その際の結論は以下の通りです。
メタボ健診などの予防医学は、短期的な医療費を減少させる効果はあるが、一生涯の社会保障費(医療費、介護費、年金)を抑制する効果はない。
chatGPTにこの論考は正しいか質問してみました。
結論から言うと、一般論としては「予防医学をやれば社会保障費が下がる」とは限らず、むしろ下がらないことの方が多いので、note記事の骨子(短期の医療費は下がり得るが、生涯の社会保障費全体は下がらないことが多い)は概ね妥当です。
Geminiにも質問してみました。
予防医学が社会保障費を削減できるかどうかという問いについては、医療経済学の観点から長年議論されており、結論から言えば「多くの予防施策は健康を改善するが、必ずしも医療費(社会保障費)の総額を減らすわけではない」というのが一般的な見解です。
以上、まとめますと、現時点では(おそらく今後も)、「予防医学をやれば社会保障費が下がる」というコンセンサスは得られていないということです。
したがって、健診を受けない人が将来的に病状が悪化したとしても、社会保障費が増加するという十分なエビデンスはありませんから、罰金を科すことは科学的には妥当ではないという結論になります。健診を受けなければ病気が悪化して、本人が苦しむだけの話です。
なぜ、某インフルエンサーは罰金を科すという発想に至ってしまったのか?
一種のフィルターバブルに飲み込まれたためだと考えられます。「予防医学をやれば社会保障費が下がる」と主張する人たちの話ばかりを聞いていると、そのような結論に至ってしまいがちです。注意すべきなのは、そうした人たちの中には、健診そのものが利権になっている場合が少なくないという点です。
利益相反のある人に囲まれていれば、どれほど優秀な人であっても、科学的に妥当な結論にはたどり着けません。専門家の利益相反には、細心の注意を払う必要があります。そして、反対意見を持つ人の主張にも謙虚に耳を傾けることが大切です。
健診の目的は、「健康寿命を伸ばす」ことであり、「社会保障費を減らす」ことではないのです。