「人助けがリスク」になる現代

黒坂岳央です。

「人助けは誰もが疑問なく、するのが当たり前」

この性善説の時代は大きく変化した。今や人助けは、運が悪ければ自身の生活を脅かす「ハイリスク」となっている。日本だけではない。世界中で起きているのだ。

Ritthichai/iStock

救助者が「犯人」にされる日本

日本において、困っている人に手を差し伸べる行為には、常に「冤罪」と「社会的抹殺」のリスクがつきまとう。

路上で倒れている人を介抱すれば、救助の様子を周囲がスマートフォンで一斉に撮影し始める。プライバシーへの配慮はなく、救護のプロセスが断片的に切り取られ、SNSという名の「私刑場」へと連行される。後に「誤認だった」となっても、続報まで考慮してくれる人はいない。SNSは冤罪になった時点で犯罪者認定される恐ろしさがある。

また、命を救うための心肺蘇生やAEDの使用が、時に「わいせつ行為」と誤認される恐怖が広がっている。この過剰なまでの警戒心は、特に男性救助者を萎縮させている。

一応、法的には「緊急避難」「善意の第三者」に対する保護は明確に存在するが、救命という緊急避難的行為であっても、ひとたび疑いをかけられれば、SNSの「民意」で人生が破綻しかねないのが現代のリアルである。

「こうしたケースは極わずか。非常に稀なケースを一般化して、人助けそのものをやめるのは愚かだ」という意見もあるし、それ自体は正論だ。だが、その非常に僅かなケースが人生を棒に振る破壊力があるとなると、一歩踏み出す勇気をしぼませるという気持ちも分かるのだ。

日本の人助けの是非を決定するのは実質的に「法」ではなく、「SNSの民意」となっている恐ろしさがある。デジタル空間での自己顕示欲は倫理を凌駕し、人命すらも「SNSのネタ」へと成り下がった。

善意を食い物にする「海外の人助けリスク」

実は日本はまだマシである。海外に目を向ければ、事態はより直接的な「悪意」に満ちている。そこにあるのは、人の慈悲心を嘲笑し、コンテンツとして消費するグロテスクな欲望だ。

アメリカでは、ホームレスにサンドイッチを差し出す「親切な若者」の裏側の話がSNSで拡散された。差し出された食べ物の中に割れたガラスの破片を混入させ、後ろではその様子をニヤニヤしながらスマートフォンで録画していたというのだ。

空腹のあまり食らいつくのを期待し、拒まれれば悪態をついて逃げる。出典元が確認できなかったのでこれが実話か作り話かはわからないが、食べ物に異物を入れる残酷なprank動画は世界的に存在するので、実話と聞いても驚かない。すべてはSNSで「バズる」ため。そこにはもはや、同じ人間としての敬意も、生命への畏怖も存在しない。

西欧諸国、特にドイツなどで起きているのは、耳の不自由な人間を装った組織的な募金・署名詐欺である。提示される署名用紙の書式が全く同じであることは、これが個人の窮状ではなく、犯罪組織による緻密な「ビジネスモデル」であることを示唆している。通行人の「助けてあげたい」という一瞬の隙を突き、組織的に金を吸い上げるスキームが完成しているのだ。

こうした「人助けのワナ」では海外の観光地では大勢の現地の人間がいる中で、あえて言葉の通じにくい外国人に助けを求める不自然さがある。これは、現地の治安や裏事情に疎い人間の「善意」を搾取しようとする明確な意図がある。

海外生活を経て「人間不信になった」と語る者が後を絶たないのは、日常的にこうした「罠としての助け合い」に晒されているからに他ならない。

人助けもリスク・リターンの世界

正直、今の時代は「人助けはリスク」という人が増え、困っている人は見捨てるというのが一般的になっても不思議ではない。

だが、そんな時代だからこそ積極的に人助けをする人がいてもいいと思っている。筆者はきれいごとではなく、できるだけ人助けができればいいと思っている。役所で手続きで戸惑っている外国人に英語でサポートをしたり、バスや電車では妊婦さんへ席を譲る。トラブルが起きている中で「何かあったんですか?」と割って入ってその場を収めたこともあった。

「きれいごと」「偽善」と言われたらそうかもしれない。筆者は自分が人助けをして気持ちよくなり、見捨てる罪悪感に悩みたくないので「自分のために」人助けをしている。

だが、それで相手からものすごく感謝されるのも事実だ。助けてもらえると思っていないであろう相手を助けると、本当に喜ばれる。それが嬉しいのでつい助けたくなる。偽善でもきれいごとでも、助けて困る人はいないなら人助けをしてもいいと思っている。そしてそれが人助けがなくなった現代の大きなリターンでもある。

とはいえ、無差別に助けていいわけではない。危険な一派のケンカに身を投じれば自分の身も危ういし、人助けを悪意に変えるケースもあるだろう。「助け方」もテクニックが必要な時代になったと筆者は見ている。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。