どうする認知症治療薬:治らない超高額薬と「ケア」という良薬

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日経メディカルにアルツハイマー認知症の原因「アミロイド仮説」について、その根拠論文を世界的科学専門誌natureが撤回したとの記事が掲載された。これまでの認知症治療薬開発の根本が崩壊しかねない大事件である。その割には報道がほとんどされない。

実は2022年にわが国の科学サイト、ナゾロジー他がスクープしていたが、この時もほとんど報道されず、黙殺された。そして超高額バイオ医薬品レカネマブが翌年、さらにアデュカヌマブがわが国製薬会社から発売された。臨床家の疑義を押し切るかのような薬事承認だった。

一方、うつ病さらに認知症でも脳内慢性炎症の関与が近年知られ始めた。さらに認知症については慢性ウイルス感染との関連、老年期に予防接種した人の認知症発症率が低い等、アミロイド原因説では説明困難な事実が知られてきた。

高額療養費が問題になった最近だが、レカネマブは年間300万円以上しかし治癒するわけではなく進行が遅れるだけ。一方で認知症患者は今後700万人とも言われ「超巨大高額療養費」になってしまい、到底全員に投与などできない。国民医療費特に高齢者医療費の際限ない増大と、その国民特に現役世代負担が問題になるときに、明確な効果がないのに青天井な治療や薬が認められるのか、適正なのか。

アミロイド仮説は以前から真に認知症の原因なのか、という疑念が言われていた。レカネマブの副作用に微小脳出血(ARIA-H)があり、その原因は認知症患者の微細な脳血管が一部アミロイドに穴埋めされたようになっており、これをレカネマブが破壊するためではないかとも言われる。つまりアミロイドは、実は壊れかけた脳血管を何とか補修していたのかもしれないとも考えられ始めている。であれば逆に危険だ。

問題の論文が捏造で撤回されれば、アミロイド仮説か直ちに全否定されるとまでは言えない。しかし科学的根拠に疑念が生じ、少なくない確率で脳出血という重篤な副作用があり得るなら、超高額薬への公的保険給付の妥当性は問われる。

国民皆保険制度は安心して気軽に医療を受けられる半面、医療機関や製薬会社、関連産業の巨大市場と利権、共依存的関係も生じた。供給があるから需要が作られる、西日本の方が医療費が高いのは、人口当たり病床数が多いからと指摘されて久しい。

超高額バイオ医薬品は、砂浜から砂金を見つけるかのような低分子薬よりは、システマチックかつ比較的短期間で開発でき薬価が高いため、今後増えると予測される。問題はその効果とコスパである。

この場合問題は、レカネマブやアデュカネマブで認知症が「治る」わけではない、ということだ。進行を半年ほど遅らせることになっているが、言い換えるとそれは「認知症で苦しむ時間がそれだけ伸びる」ことでもある。

自立できる期間が長くなり、すとんと落ちるようにボケてじきに死ぬ、のではない。徐々に色々なことができなくなり、本人の困惑苦悩と介護者の負担がダラダラ長引き遷延する、平均で発症から5年ほどと言われる闘病と介護の時間が引き延ばされる。それは幸福なことなのか、盲目的延命により逆に末節を汚し苦しませないか。

筆者は認知症グループホームとデイサービスの複合型施設の、統括施設長経験がある。家庭で面倒見られないから入所するわけだが、特にホームの認知症の人たちは皆ニコニコして、ときに私に冗談をかまして、楽しく暮らしていた。専門的介護の成せる業だ。近隣の旅館の元板長が調理場に居たので、檄を飛ばしたら? 食事も格段に美味しくなり、余計皆ニコニコだった。

いよいよ国民医療費50兆円時代が迫り、国家税収80兆円が飲み込まれつつある。盲目的延命のためになし崩しに超高額薬を次々承認し、医療費を食いつぶして良いのか。国民皆保険制度維持と患者介護者の幸福QOLの観点から、高額療養費、超高額医療の在り方を、今一歩立ち止まり一考するべき時期ではないだろうか。

※ 本稿は2025.11.18 橋本財団「Opinions」掲載稿「どうする認知症治療薬!? ケアという良薬を」を一部修正し転載しました。