グリーンランド問題を別角度から見る

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デンマーク王国自治領グリーンランドをめぐっては、デンマーク、グリーンランド双方の世論ともトランプ米大統領反対一色であり、異見はあまり目にできない。

「あまり」というのは、現地グリーンランド住民の中に、デンマークからの独立が遅れるぐらいなら、米国の力に頼ったほうが早道だという急進独立派の主張が散見されるからである。だが、これも米国領になることを願っての発言ではない。

北欧の領土観と極北をめぐる安全保障の論理

目を隣国ノルウェーに転じると、これが他国の問題であるだけに、やや冷静、あるいは冷淡な論調も見られる。ある政治家は、「今さら、グリーンランドを返せというのではないが」と前置きした上で、「人が住まず、守らず、開発もしない領土は、いずれ大国に奪われるものだ」と指摘する。

「返せ」というのは、戦間期にノルウェーがグリーンランド領有を宣言し、国際司法裁判所で敗れた「東部グリーンランド事件」を指す(佐々木浩子・島嶼研究ジャーナル4巻2号)。「住まず」は、日本の6倍の広さを持つ世界最大の島が、5万強の人口しかないこと、「開発」は、デンマーク政府が海産物と引き換えに補助金を与えるだけで、インフラ整備等にも熱心でなかったことを意味している。

「守りもしない土地は奪われる」はノルウェー国民の信念で、あまり知られていないことだが、同国北部の最東端はロシアと陸続きで国境を接しており、ノルウェー軍はここに駐屯部隊を置き、防備を固めていることが誇りなのである。

2024年3月、ノルウェー防衛研究所(FFI)「Wargaming Taiwan 2027 – 米中対立とノルウェーの防衛計画」では、「台湾戦争における同盟国の安全保障と危機管理に対するノルウェーの貢献の大部分は、極北地域におけるノルウェーのプレゼンスと活動にかかっている」という。

2025年3月、デンマーク国防アカデミー「グローバルな軍事大国としての中国―デンマーク国防の軍事戦略展望」は、「二国間的には、中国軍と北極圏で遭遇する可能性が高い」とする一方、「台湾海峡での軍事紛争発生時のデンマークによる米国への支援からの遭遇もあり得る」とする。

ウラン・レアアースと中国資本がもたらす構造的リスク

第2次大戦中、米軍の秘密調査隊がグリーンランドに上陸した。目的は、原子爆弾の材料となるウランの資源探査であった。実際に広島と長崎に投下された原子爆弾のウランは、アフリカのコンゴ産だったが、「マンハッタン計画」を推進した米国側は、戦後も冷戦に備え、デンマークの原子物理学者ニルス・ボア博士に対して、グリーンランドのウランに手を付けないよう強いていた。

1979年のグリーンランド自治政府誕生後も、天然資源はデンマーク政府の管理下にあり、1988年、ウランを含む放射性物質の探鉱・採掘を一切禁止する「ゼロ・トレランス政策」が採られた。2009年の自治権拡大で資源管理が自治政府に移って以降も、この規制は維持されていた。だが2013年に至り、グリーンランド議会は、「ウランを副産物に含むレアアース鉱床」の採掘を許可するためとして、「ゼロ・トレランス政策」を廃止した。

それは、2007年からオーストラリアの鉱業会社(旧名)グリーンランド・ミネラルズ(GMEL)の現地子会社、グリーンランド・ミネラルズA/S(GMAS)が、同島最南端のクヴァネフィエルド高地にある世界最大級のウランとレアアースの鉱床の調査・開発プロジェクトに取り組み、デンマーク、グリーンランド各界の要人を顧問に採用し、両国政府と議会へ強力に働きかけた結果であった。

2021年12月、同社は正式な「探査許可」を取得するものの、ウランの放射能リスクを懸念する声が住民から高まった結果、これに先立つ同年4月の選挙で、開発反対派の「イヌイット友愛党」が勝利しており、「ウラン採取禁止法」の施行とほぼ同時であった。これにより、クヴァネフィエルド・プロジェクトは実質的に停止した。

2022年11月、GMELは社名を、エナジー・トランジション・ミネラルズ(Energy Transition Minerals Ltd、ASX: ETM)と、環境に優しい印象に変更した。クヴァネフィエルド・プロジェクトも、「ウラン採掘とその副産物としてのレアメタル採取」から、「レアメタル採掘と、それに伴い極少量産出するウラン採取」へと改めた。

もともと同社は、イタリア・マフィアとの関係が噂された謎の人物「ミック・メニー・ネームズ」シェメシアンが創業した、世界の紛争地帯で活動する某社の完全子会社としてスタートした。上場を果たしてからは、中国国有企業である盛和資源(Shenghe Resources)が筆頭株主となり、その後の株式希釈があっても、盛和と行動を共にする中国系投資ファンドが取締役を出す権利を保有し、実質的な筆頭株主であり続けている。

盛和は、中国の主要鉱物およびウラン処理企業の一つで、核兵器も製造する中国核工業集団(CNNC)と緊密に連携しており、クヴァネフィエルドから重要鉱物が採掘されると中国に輸送され、盛和がCNNCと協力して加工するため、両者で合弁企業を設立している。米当局は、CNNCと中国軍との関係を指摘している。

法廷闘争と米国政治——グリーンランドの行方

2023年秋、GMASは、グリーンランド自治政府とデンマーク政府を相手方として、デンマーク仲裁裁判所に国際仲裁を、コペンハーゲン市裁判所に訴訟を提起した。いずれの手続においても、まずはクヴァネフィエルド鉱山の「採掘許可」の取得、それが得られない場合には損害賠償を後に求める予定であるとした。

両政府を相手取るのは、2007年に調査を許可したのがデンマーク政府の機関であったからというが、実際には、ウランの国際移動(持ち出し)については、デンマーク政府のみが権限を持つからである。

2025年10月28日、仲裁裁判所は、採掘ライセンスをめぐる紛争は、グリーンランド高等裁判所で、自治政府のみを相手に訴訟審理されるべきであるとの裁定を下した。GMASは、損害賠償と利息として約115億米ドルを求める予定としていた。これは、グリーンランドの年間予算の10倍以上に相当する。11月10日、コペンハーゲン市裁判所も同様の判断を示した。

将来、賠償が認められれば、グリーンランドは財政破綻国家となるだろう。デンマーク政府が救済できるか、その能力や意欲は分からない。

両政府とも、賠償はあり得ないとして、その理由を、金銭解決はクヴァネフィエルド鉱山を買い取るに等しく、それは行政法上の「収用」であり、法令上も契約上も根拠を欠くとしている。それでは、自治政府が敗訴すれば「採掘許可」となり、ウランと希少鉱物は中国で核兵器その他の軍事利用を満たすことになる。ここ「氷上の一帯一路」でも、中国は同じ「支払いか、召し上げか」の手法を駆使しているわけである。

2026年1月14日、デンマークのラース・ロッケ・ラスムセン外相と、グリーンランドのヴィヴィアン・モッツフェルト外相が、ワシントンD.C.で、ヴァンス副大統領とルビオ国務長官との会合直後、タバコを一服する動画が拡散した。

80分間の非公開会合の直後、ヘビースモーカーとして知られるラスムセン外相は、報道陣が見守る中、駐車場の自車に向かって走り、車の後部トランクを開けて取り出したコートを羽織り、ポケットからタバコとライターを取り出して火を点けた。そばに近づいて見守るモッツフェルト外相にタバコとライターを手渡し、彼女も一服した。この映像は、グリーンランドの住民から「弱さ」の表れだとする指摘もあった。

会談前、二人の外相の評判はあまり芳しくなかった。2023年10月、モッツフェルト外相は、北京のグリーンランド代表部開設にあたり中国を訪問した。デンマークでは、「愚かにも!」彼女は中国をグリーンランドの発展に重要なパートナーと見ていると批判された。

ラスムセン外相をめぐっては、2024年3月以降、デンマークの公式文書において台湾人の国籍と出生地を「台湾」ではなく「中国」と記載するという新方針が批判された。対外公表なしに行われた中国寄りの新方針は、EU加盟国中、デンマークとルクセンブルクのみだという。

トランプ米大統領によるグリーンランド問題への介入に対しては、ルッテNATO事務総長の斡旋により、グリーンランド、デンマーク、米国の三者協議に委ねるとされ、結局、先のワシントンでの会談により、二人の外相が取り付けたと報告し、その後トランプ大統領が退けたと説明されていた路線に戻ったことで、一転して二人の人気が高まっている。

とりわけモッツフェルト外相は、先の会談直後、グリーンランドの公用語カラリットで涙ながらに住民へ報告したことから、帰島時の空港で熱狂的な歓迎を受けた。

2026年1月9日、ETMは、米国における重要鉱物の新興プロバイダーとしての地位強化を図る戦略アドバイザーとして、Ballard Partnersを起用した。トランプ氏の友人かつ寄付者であり、資金調達の主要な役割を演じてきたブライアン・バラード氏が経営するロビー活動会社である。これは、どのような戦略と解すべきなのだろうか。