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日本最大級の病院グループである日本赤十字社が、有料個室の患者に対してのみ面会制限を緩和している。これは単なる一病院の運用ではなく、全国の医療機関に影響を与える重大な制度的問題である。
日赤医療センターの面会要綱では、一般病棟の個室であっても「1日1回、2名、30分」という厳しい制限が続く。一方で、12Fのエグゼクティブフロアだけは事実上の面会自由となっている。面会要綱はHPに公開されている。
では、この差は感染対策上の合理性によるものなのか。
12F担当の医療従事者は12Fに住み込んでウイルスを持ち込まないようにしているのか?
専用直通エレベーターでも設置されているのか?
ウイルス無効化装置でも備えているのか?
もちろん、そんなエビデンスは存在しない。存在するのは「高額個室料を払っているかどうか」という経済的差だけである。個室料金はHPに掲載されている。
日赤は明治期から皇室と深く関わり、歴代皇后陛下が名誉総裁を務めてきた。現在は敬宮愛子内親王殿下が日赤に勤務されている。国際赤十字の七原則の中でも「公平」は最重要の理念であり、人種、身分、財産による差別を禁じている。にもかかわらず、今回の日赤の運用は「財産によって面会の権利を差別する」構造そのものであり、人道組織としての根幹に反する。
さらに、皇室の慈愛の精神を体現してきた日赤が「金を払えば面会させてやる」という制度を採用することは、皇室の名誉を利用する組織として看過できない。名誉総裁を戴く団体が行ってよい態度ではなく、倫理的な意味での不敬ですらある。
日赤は全国に広がる巨大医療ネットワークであり、他院のモデルケースとなる存在だ。ここが「金を払えば面会緩和」という前例を作れば、他の病院も追随する可能性が高い。金を取らなくても、面会制限は医療従事者にとって負担が減るため、制限は維持されやすい。そこに「VIPだけ緩和」という構造が加われば、全国的な面会差別のテンプレートが形成されてしまう。
結局のところ、12Fだけ面会自由という制度は感染対策ではなく、経済的差別に基づく運用である。科学的根拠も医療安全上の必然性もなく、国際赤十字の理念にも皇室の精神にも反し、全国の医療文化に悪影響を与える。これは単なる一病院の問題ではなく、日本の医療文化の歪みを象徴する構造的問題だ。
次回は、日赤の財務諸表を読み解きながら、面会制限が組織運営や収益構造とどのように結びついているのかを分析する。面会禁止の構造は、財務の視点から見ることでさらに鮮明になるだろう。
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九条 丈二
都内民間企業勤務。家族の入院・面会制限を通じ、科学的合理性と情緒的伝統が衝突する現場の矛盾を痛感。専門家ではない一市民の視点から、日本人の深層心理に根ざした医療の特権化について分析を行っている。