序論:ポスト・真実時代の日本政治と周辺化された民意
2026年の衆議院議員総選挙は、日本のリベラル・ポピュリズム勢力にとって極めて厳しい試練の場となった。
長年続く経済停滞と既存政治への不信感は依然として強いものの、今回の選挙では強力な保守・政権支持の流れが生まれ、対抗軸としてのれいわ新選組や日本共産党はかつての勢いを失い、明確な「退潮」の兆しを見せている。
こうした両党の勢力減退という現実に対し、一部の支持層から噴出しているのが「不正選挙」を巡る言説である。特に、設立からわずか9か月で11議席を獲得した新興政党「チームみらい」が疑惑の矢面に立たされている。
計数機メーカー「ムサシ」による操作説に加え、新興勢力の不自然な得票推移を疑う声は、自分たちの正当な民意が排除されているという疎外感と、期待した選挙結果との間の「認知的不協和」を埋めるための防衛機制として機能している。
第1章:支持層の地殻変動と勢力の退潮
1.1 日本共産党の衰退とれいわへの「情熱」の移譲
2026年衆院選において、日本共産党は改選8議席から4議席へと議席を半減させる「重大な後退」を喫した。比例代表の得票率も前回の6.16%から4.40%へと落ち込み、長年守り続けてきた沖縄1区の議席も失うなど、組織の衰退が一段と加速している。
この共産党の退潮の裏で顕著なのが、伝統的な共産党シンパの一部がれいわ新選組へと流入している実態である。
共産党は「科学的社会主義」に基づく理論を重視するが、組織の高齢化が進み、野党共闘を巡る迷走の中で「たたかう姿勢」が軟化したと映るようになった。これに対し、れいわ新選組は山本太郎代表の「徹底した対決姿勢」を前面に押し出し、かつて共産党が担っていた反体制的なエネルギーの受け皿となってきた。
1.2 「左翼ブロック」の埋没と新興勢力の躍進
今回の選挙では、共産党、れいわ新選組、社民党が協力する「左翼ブロック」を形成したが、全般的に存在感を示せず苦戦を強いられた※1)。この旧来の左派勢力が埋没する一方で、AIエンジニアの安野貴博氏が率いる「チームみらい」が比例代表で約381万票を集め、11議席を獲得した。
伝統的左派が衰退し、基盤の乏しい新興勢力が急伸した事実は、れいわ支持層にとって「受け入れがたい不自然さ」として映っている。
第2章:ターゲットとしての「チームみらい」―疑惑の構造
2.1 統計的アノマリーとされる主張
れいわ新選組の支持層がSNSを中心に展開している「チームみらい」への不正疑惑には、具体的な数値を用いた指摘が多い。
- 候補者不在地域での得票:兵庫県の小選挙区に候補者を擁立していないにもかかわらず、比例代表で約15万票を獲得したことに対し、「候補者がいない地域でこれほどの票が出るのは不自然だ」とする主張がなされている。
- 得票率の「固定」疑惑:朝倉市や南阿蘇村など複数の自治体で、チームみらいの得票率が約4.8%前後に不自然に一致・固定されているという指摘がなされている。支持層はこれを「集計プログラムによる操作の痕跡」であると解釈している。
2.2 政治的敵対心と「裏切り」の構図
れいわ支持層がチームみらいを標的にするのは、単なる数字の問題だけではない。チームみらいは2025年秋の臨時国会において、自民党と政策合意を結び、補正予算案に賛成に回った経緯がある。
「徹底した反緊縮・反権力」を掲げるれいわの立場から見れば、与党と協調するチームみらいは「既得権益層に補完される偽の改革勢力」に他ならない。この政治的な嫌悪感が、不正選挙という物語を補強する強力なバイアスとなっている。
第3章:迫害の論理の継承と変容
3.1 共産党の「弾圧」の歴史とれいわの「ブラックアウト」説
日本共産党は、戦前の治安維持法による弾圧の歴史を党のアイデンティティの核としている。この認識は、共産党かられいわへ流れた支持者を通じ、現代的な形へと変容して継承された。
現代における「弾圧」は、メディアがれいわを報じない「メディア・ブラックアウト」や、議会での少数派排除という形で現れるとされる。
勢力が退潮局面に入り、チームみらいのような新興勢力が台頭したことで、被害意識は「選挙の集計プロセスそのものに手が加えられている」という確信へと接続された。
3.2 認知的不協和の解消としての「不正」
山本太郎代表が公示直前に辞職してまで街頭に立ち、挽回を試みたものの勢いを戻せなかった事実は、熱狂的な支持層にとって受け入れがたいものである。
自分たちの「熱量」と「数字上の敗北」を両立させる唯一の論理が、ムサシの機械やプログラムによる不正操作なのである。
第4章:参政党との比較―「退潮」のなかでの差異
既存システムを否定する点では参政党と類似するが、れいわ新選組と共産党の支持層は、比較的後までマスクを着用し続けるなど、科学的知見を一定程度尊重する傾向がある。調査によれば、参政党支持層の80.4%がマスク不要論を支持するのに対し、共産党支持層は48.3%にとどまる。
れいわ支持層の不信の対象は、あくまで「経済的な搾取」と「政治的な公正さ」であり、チームみらいへの攻撃も「自分たちの未来が不透明な技術(AI)によって盗まれた」という怒りに基づいている。
第5章:政治的疎外が生む「正当性の危機」
2026年衆院選における不正選挙言説は、自分たちの「熱量」が政治結果に反映されないことへの絶望感である。選挙結果を正当なものとして受け入れる合意形成が崩れている現状は、日本の民主主義における深刻な正当性の危機である。
第6章:結論―左派勢力の「根本的な欠陥」と陰謀論への逃避
2026年衆院選における「不正選挙」言説の氾濫は、日本における左派勢力が抱える「根本的な欠陥」を露呈させた。彼らが容易に陰謀論に落ち込んでしまう背景には、時代の変化に適応できない教条主義と、ポピュリズムの限界がある。
第一に、日本共産党は、戦前から続く「迫害と抵抗」という物語に固執するあまり、現代の現実的な安全保障や経済的課題に対応できない「時代遅れ」の政党へと凋落した 。自らの政策が有権者に拒絶されたという現実を直視せず、定数削減やメディアの偏向といった「外部からの圧力」に敗北の責任を転嫁し続ける体質が、支持者を陰謀論的な世界観へと誘導している。
第二に、れいわ新選組は、感情的な動員に依存するポピュリズムの「根本的な限界」に到達した。山本太郎という個人のカリスマ性に依拠し、「自分たちだけが真実を知っている」という選民意識を煽る手法は、勢力が拡大している間は熱狂を生むが、退潮局面においては「社会全体が自分たちを嵌めようとしている」という被害妄想的な攻撃性へと反転する。チームみらいという新たな新興勢力に対する統計的疑惑の追及は、自らの手法の限界と向き合うことを拒むための心理的逃避に他ならない。
共産党シンパがれいわへと流れた現象は、より刺激的な「迫害の物語」を求めた結果であり、左派勢力の再生ではなく、むしろ閉鎖的なエコーチェンバーの強化を招いた。
両党に共通する欠陥とは、自らの主張が社会の多数派に受け入れられない原因を、常に「外部の不正」や「悪意ある勢力」に求める他罰的な構造である。この内省の欠如こそが、彼らを民主主義的な対話から遠ざけ、陰謀論という袋小路へと追い込んでいる。
日本の民主主義がこの不信の連鎖を克服するためには、こうした「限界」を迎えた古い物語を清算し、根拠のない疑惑ではなく、現実のデータと真摯に向き合う政治的な成熟が求められている。
【引用文献】
※1)れいわ・山本代表/会見で野党共闘を否定 – 日本共産党
編集部より:この記事は島田裕巳氏のnote 2026年2月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は島田裕巳氏のnoteをご覧ください。