英BBCが異例の問いかけ
英BBCは9月18日、「War may be coming. Are we psychologically ready?(戦争が来るかもしれない。私たちは心理的に準備できているか)」と題する記事を掲載した。英国が突然戦争状態に入った場合、国民は何をすべきか分かっているのか――という問いから始まる内容で、欧州を取り巻く安全保障環境の急速な悪化を象徴する報道となっている。
【参照リンク】War may be coming. Are we psychologically ready?(BBCも「戦争が来るかもしれない」:欧州で進む有事への備え) BBC
記事では、英国政府が国民に対し、生活に深刻な混乱が生じる事態を想定して、缶詰や飲料水などを備蓄し、市民社会の危機対応力を高めるよう求めていることを紹介。さらに、政府内では数十年間十分に更新されてこなかった、戦争や重大危機の際の対応計画、いわゆる「War Books」の見直しが始まっているという。英国軍制服組トップのリチャード・ナイトン国防参謀総長も、ロシアの脅威を念頭に「35年間の軍歴で最も危険な時期」と警告している。

トランプ大統領(ホワイトハウス X)、ゼレンスキー大統領(同大統領インスタグラム)、プーチン大統領(クレムリンHP)
政府も「本土有事」を想定
もっとも、備蓄要請そのものは戦争だけを対象とした緊急指示ではない。サイバー攻撃や停電、断水、自然災害など幅広い危機に備えるための政策でもある。
それでも英国政府の動きは従来より踏み込んでいる。7月に公表された「Resilience Action Plan 2026 Implementation Report」では、ロシアによる武力衝突未満の攻撃や大規模サイバー攻撃などを脅威として挙げ、「Home Defence Programme」を推進すると明記した。2027年には閣僚や地方当局も参加する全国規模の本土防衛演習を実施する予定で、軍事と民間の危機対応を一体化させる方針だ。
もはや英国政府は、「戦争は海外で起きるもの」という前提だけでは安全保障政策を組み立てていない。
NATOも食料・水・医療を戦争仕様に
同様の動きは英国だけではない。NATOは9月15日、加盟国向けの新たな「Resilience Baseline Requirements」を公表した。
【参照リンク】Resilience Baseline Requirements(2026年レジリエンス基準要件) NATO
そこでは政府機能の維持、エネルギー、食料・水、医療、通信、交通などについて、平時だけでなく「危機および紛争時」にも機能を維持できる体制を求めている。食料と水については、民間人への供給だけでなく軍事作戦も支えられるよう備えることを要求。医療分野でも大量死傷者の発生を想定し、医薬品や血液製剤の備蓄を求めている。
これは、戦争への備えが軍隊だけの問題ではなくなったことを意味する。発電所、水道、病院、通信網、鉄道、物流、そして一般家庭まで含めた「社会全体の防衛」が始まっている。
欧州は「平時」の終わりに備える
もちろん、ロシアとNATOの全面戦争が目前に迫っていると断定することはできない。核保有国同士の直接衝突を避けようとする抑止力も働いている。
しかし現代の戦争は、戦車が国境を越えるところから始まるとは限らない。海底ケーブルの破壊、サイバー攻撃、通信障害、電力網への攻撃、物流の混乱など、平時と戦時の境界が曖昧な「ハイブリッド戦」が先行する可能性がある。NATO自身も、重要インフラへの物理的攻撃や破壊工作、サイバー攻撃を具体的なリスクとして挙げている。
BBCが「戦争が来るかもしれない」と英国民に問いかけ、政府が戦争計画を更新し、NATOが食料や水まで含めた社会防衛を進める。少なくとも欧州では、「戦争など起こるはずがない」と考える時代は終わりつつある。
戦争が本当に迫っているのかは分からない。しかし欧州各国が、すでに「起きないこと」を前提にするのをやめ、「起きた場合」に備え始めていることだけは確かである。それを後世の人間が「第三次世界大戦」と呼ぶことになるかはまだわからないが。







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