ドイツの「国民政党」が消滅の危機に:メルツ首相の辞任は近い

ドイツで20日、ベルリン市(特別州)と北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州(MV州)の両議会選の投開票が実施されたが、MV州選挙で極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が与党社会民主党(SPD)を抑え、第1党に躍進した。一方、メルツ首相の「キリスト教民主同盟」(CDU)が州議会で議席獲得に必要な得票率5%をクリアできずに、州議会の議席を失った。CDU創設81年で初めてのことだ。その衝撃はCDU内で大きな波紋を呼び、メディアの中には「メルツ首相の辞任は近い」といった憶測が流れている。

連邦議会で来年度予算案についてスピーチするメルツ首相、2026年9月9日、ドイツ連邦首相府公式サイトから

当方は同州議会選の結果について日本時間21日午前4時過ぎ頃配信したが、その段階で、ZDF公共放送によると、CDUが得票率5%をクリアしていた。そのため、コラムの記事で「CDUが辛うじて5%をクリアした」と書いて配信した。結果は誤報となった。ウィーンで21日早朝、目覚めてPCをチェックすると、CDUは5%の壁をクリアできず、得票率は4.9%だったと報じていたのだ。驚いた。当方はウィーン時間20日夜10時頃から21日早朝4時の間、休んでいたが、その6時間の間で「5%の壁をクリアした」から「5%以下となった」と変わったのだ。0.1%の違いだが、その差は大きい。

そこで配信先に訂正記事を再送してから落ち着いて考えてみた。ZDFの第1報ではCDUは5.0%~5.5%の得票率と報じられていた。当方が最後にチェックした時は5.2%前後だった。そこで5%を完全にクリアしていると判断したが、その後での集計で5%以下に落ちたわけだ。

MVはドイツの16州の中でも人口密度は低く、有権者の数は約130万人だ。要するに、同州のパイが小さい。バイエルン州などの大きな州では第1報の得票率から最終集計で大きく下がることは少ない。有権者の数が多いからだ。

メルツ首相は20日、第1回目の集計結果を見て、MV州で5%以上は行くと考えたのだろう。ベルリンの党本部で「「MV州の結果はディザスター(大惨事)だった」と認める一方、「私は改革を前進する決意だ。今なすべきことには、気骨と不屈の精神、そして忍耐が必要だ」と述べ、「私はCDU党首として、そして何よりもこの国の首相として、取り組んでいく。その結果に対して私は責任を担う。ドイツ国民は改革能力を有している」と語り、首相として社会民主党(SPD)との現連立政権を継続する意思を明らかにしているのだ。

繰り返すが、メルツ氏はその段階で「得票率は5%はクリアする」と確信していたのかもしれない。結果は4.9%だった。ドイツメディアの解説記者が「メルツ氏は第1回目の集権結果で改革へ強い決意を吐露したが、最終結果が判明した後でも多分同じ内容のコメントを公表していただろう」と述べていた。ひょっとしたら、メルツ氏にはMV州のディザスター(大惨事)は織り込み済みだったのかもしれない。

9月に入り、ドイツでは6日、ザクセン=アンハルト州、20日にベルリン市とMV州の各議会選が行われた。2州(ザクセン=アンハルト州とMV州)で極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が大飛躍し、第1党に躍り出た。ベルリン市では極左「左翼党」が初めて州レベルだが第1党の地位を得た。極右政党と極左政党が大きく伸びたわけだ。

一方、かつての国民政党(Volkspartei)、中道右派のCDUと中道左派のSPDの2党は後退を余儀なくされている。MV州だけは、SPDのシュヴェージヒ州首相が健闘し、選挙戦終盤からAfDと激しいトップ争いを展開した。ただし、同首相の場合、選挙戦ではSPD出身という党カラーを消し、「AfDに挑戦する女性首相」といった構図を作り、現職の強みもあって戦っていた。ちなみに、ベルリンの場合、左翼党がCDUを破って第1党に躍り出た背景には、ベルリン市の最大の争点でもある住居問題を左翼党が積極的に取り組んできた成果だといわれている。

カッセル大学の政治学者ヴォルフガング・シュレーダー教授は20日、オーストリア国営放送(ORF)でのインタビューで、「5年後、ドイツの政治勢力の構造は全く変わっているだろう」と述べていたのが印象的だ。国民政党を自負してきたCDUとSPDは政党としての勢いを失い、新たな方向性を見出せずに苦戦している。CDUは伝統的キリスト教の看板を下ろし、社会の世俗化に迎合、リベラル化する一方、SPDは労働者の政党を誇示してきたが、労働者という社会階級が次第に消えていく現在、党の支持基盤が崩壊してきている。その隙間をぬって、AfDが伝統的な愛国主義政治を標榜し、左翼党はSPDに代わって貧しい人々、社会の弱者層に支持を広げてきている、といった具合だ。

ドイツだけではないが、反移民。外国人排斥、自国ファーストを掲げる極右政党はお欧州各地で躍進し、ドイツの場合、AfDに投票する国民はもはや既成政党への抗議票ではなく、その政治信条に共鳴する有権者の票と言われ出した。既成政党は「防火壁」(Brandmauer)を構築し、AfDの躍進に対して国民に警告を発する対策を取ってきたが、その政策も限界が見えてきた。既成政党がAfDを危険視し、「防火壁」を構築したとしても、選挙の度、2割から3割の国民がAfDに票を投じる現在、それらの支持者を無視して「防火壁」を築くことは民主主義の政治原則から見ても好ましくない。実際、「防火壁はもはや何ももたらさくなった」という声が広がってきているのだ。

ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのニコラス・ボローメ論説委員長は「メルツ氏が改革、改革と叫ぶ度、有権者の票はAfDに流れているのを感じる」と少々シニカルに語っていた。国民はもはや政治家の言葉を信じなくなってきている。国民の政治不信が既成政党の権威喪失へと繋がっている、という指摘だ。9月に実施されたドイツの州議会選、地方選挙の結果は、ドイツの政界が終戦から81年を経過し、大きな転換点にあることを明確に示した。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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