黒坂岳央です。
筆者の親族には「資産5000万円を作ったら後は週3日の気楽なバイトで生きていきたい」という人がいる。そして似たような意見もSNSでよく見る。
「バイトをしながらのFIRE」一般的にはバリスタFIREと言われるこの立場を解像度高く考えるなら、これは決して「お気楽生活」とは言えないのではないかと思っている。
自分は20代前半までお気楽フリーター生活を経験しているので分かるが、職場の中年バイトの立場はまったくお気楽ではないことを知っている。むしろ、会社員の方が精神的には楽なことは少なくないだろう。
バリスタFIREを目指す人は会社員を辞める前に、中年バイトを体験してからが良いのではないだろうか。

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会社員よりしんどい「バイトという立場」
会社員は成果、顧客、評価など責任が重い立場である。その一方、仕事の進め方を考えたり、自分で優先順位をつけたりする裁量は与えられる。正社員だからこそ一人の戦力として大切に扱われる面もある。
デスクワーク職だと、会社員の8時間は8時間すべて肉体を動かし続けるわけではない。考えたり相談をするほか、時間には様々な濃淡がある。上述の通り裁量もあるので自分のペースで結果だけ出すことを考えればいい。
だがバイトは逆で、大きな責任は負わない代わりに「裁量がない」という別の苦しさがある。「この時間、この場所で、この作業をしてください」が基本で、自分で効率化を考えるよりも上からの指示通り動くことだけが求められる。つまり責任と一緒に裁量も捨てることになる。
そして時給が発生している間、仕事を詰め込まれる。終わったら次、また次。腰や膝への負担まで個人に合わせて仕事を設計してくれるとは限らない。後ろから言われるままに作業ロボのように働くのだ。
自分の裁量で仕事をやってきた立場の人にとっては、時に年下の上司にアゴでこき使われる苦しさはバイト独特のしんどさである。
中年バイトの立場の苦しさ
バリスタFIREというと「暇つぶしと社会との接点を兼ねて、カフェなどで週2~3日働く」というイメージが出てくる。「バリスタ」という言葉からもそれが分かる。確かに30代前半までだとこれは強く効く。そこで人との出会いもあるだろうし、バイト同士で遊ぶこともできる。
自分はコールセンターでたくさん面白い人に出会ったり、一緒に遊んで来たので「責任はないが、同年代との面白い出会いだけ総取り」という良さはよく分かる。しかしそれは若い間限定だ。中年バイトの置かれる立場はそんな甘くはない。
自分がいたバイト先でも交流があるのは30代前半までだ。それ以降は存在はスルーされる。特に中年男性でバイトとなると「あの人ヤバくない?」みたいな陰口の対象になりやすいし、実際そういうのを何度も目撃してきた。
筆者は家族旅行へよく行くのだが、子供から言われたのは「なんでウェイターとウェイトレスは若いのに、料理人は年を取ってるの?」と聞かれたことがある。「料理人は修行が必要で長く働き、給仕の人はバイトが多いからね」と答えた。
自分でそういっていて気づいた。これは実際そうだ。特に若者向けのカフェやアパレルなどでは、スタッフ自身が店の雰囲気の一部になる。もちろん中高年の接客スタッフもゼロではないが、年齢を重ねるほど「若者に囲まれて、おしゃれな店で、適度に接客する」といった自分の希望通りの仕事を選べるとは限らない。バリスタFIREのはずが、バリスタの仕事を選ぶのが難しくなる。
現実には清掃、品出し、調理補助など、FIRE前に想像していた仕事とは違う求人が選択肢になることもある。「若者と楽しく交流でき、体力的にも楽で、責任も軽い仕事」を選べるとは限らない。
一度自由を知ったら戻れない
人生はサイドクエストという感じで会社員の頃は当然ながら仕事が人生の中心になる。その頃は責任を全うするために必死に働く。
だがFIRE後は起床時間も休日も自分で決める。一度でもこの圧がない生活を知ってしまうと、再び時給労働者として細かく指示される世界に戻ることはかなり難しい。
若い頃のアルバイト経験から「バイトなんて余裕」と考えるのは危険で、20歳の自分が耐えられたことと、中年の自分が耐えられることは別問題だ。
筆者はバイト経験なら人並み以上にあるつもりだ(といっても一箇所で長続きせず、転々としたからなのだが)。だが、40代の自分が今からバイトになって店長の指示通り動く作業ロボになるのは「気楽」というより「苦しそう」というイメージになる。それなら今まで通り、自分が好きな仕事を自営業として続けたいと考えてしまう。やはりここは若い頃と中年とではメンタル構造が大きく変わる。
◇
ファットFIREなら、仕事が嫌なら働かなければいい。だが資産ギリギリでバイト前提のFIREはそうはいかない。バリスタFIREは必ずしも会社員生活のイージーモードではない。
FIREで本当に強いのは「楽な仕事を選べること」ではなく、嫌な仕事しか残っていない時に、働かなくてもいいことなのだから。
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