AIブームを支えてきた巨額投資に、現実の壁が立ちはだかっている。英AIクラウド企業Nscaleは、データセンターの整備が遅れる中、新規株式公開(IPO)で目指す企業評価額についても投資家の反発に直面している。

Nscaleのデータセンター(Bloomberg)
ブルームバーグによると、同社が目指してきた評価額は約300億ドル。一方、一部の投資家は160億~190億ドル程度が妥当とみている。両者の隔たりは大きく、評価額の引き下げや上場延期につながる可能性がある。Bloomberg
契約があっても、設備が動かなければ稼げない
Nscaleは、GPUを使ったAI向け計算基盤を提供するネオクラウドの一つだが、その稼働実績は乏しい。専門メディアのData Center Dynamicsによると、同社の上場申請資料に記載された稼働中の施設は5カ所、合計55メガワットで、別の12拠点は開発の途中にある。
ノルウェーのグロムフィヨルド拠点では、冷却設備の漏水や火災などで工事が約6カ月遅れ、計画する30メガワットのうち稼働しているのは6.4メガワットにとどまるという。全設備が未完成というわけではないが、投資家が買う成長の多くは、これから完成させる施設に依存している。DCD
電気が来ない「AIの成長戦略」
さらに痛手となったのが、英国ロートンの計画だ。マイクロソフトは、この拠点の利用契約から撤退した。ロイターによると、送電網への接続が遅れ、電力供給は2030年代になると伝えられていた。
両社は他の拠点での協力を継続するとしており、全面的な提携解消ではない。それでも、大口顧客との契約が電力不足で失われた事実は重い。半導体を確保し、顧客を集めても、電気が届かなければ計算能力は売れない。reuters.com
資金調達と建設遅延の悪循環
ここにAIインフラ事業の難しさがある。設備を完成させるには先に巨額の資金が必要だが、投資家は設備が予定通り稼働する確信を求める。建設が遅れれば収益化も遅れ、上場条件が悪化すれば、追加投資の負担も増す。これは事業構造から考えられる悪循環だ。
Nscaleの問題だけでAI需要全体の失速を断定することはできない。しかし、需要への期待と、それを利益に変える能力は別である。著名企業の出資や大型契約だけでは、建設工程も送電網も動かない。
IPOの成否を左右するのは、壮大な将来計画を語る力から、約束した期日までに設備を動かす力へ移りつつある。AIも結局は、電気と工事と資金繰りから逃れられない。







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