
映画を見終わった後、誰かに感想を話したくなることがあります。結末の解釈でも、俳優の魅力でも、妙に心に残った場面でもいい。ただ、こちらの熱量に付き合ってくれる相手がいるとは限りません。
そんな映画好きの話し相手にも、AIが登場しています。
東京国際映画祭は10月16日、対話型AIによる映画案内サービス「A Cinematic Talk」を紹介しました。公式発表によると、映画好きの女性キャラクター「A Cinematic Girl」と会話しながら、映画祭の上映作品などを相談できます。公開期間は11月4日までと案内されています。
公式に紹介されている用途は、映画の相談や作品案内です。恋人の代わりを提供するサービスという説明ではありません。それでも、この試みは「趣味を共有する相手に、私たちは何を求めているのか」を考えるきっかけになります。
欲しかったのは、作品リストだけでしょうか
映画を選ぶだけなら、ランキングやレビューでも十分かもしれません。けれど、見たい作品をまだ言葉にできないときもあります。疲れているけれど、単に明るい映画が見たいわけでもない。そんな曖昧な気分を、誰かに話したくなることがあります。
博報堂の発表では、その日の気分や好きな作品を伝え、おすすめを相談できると説明しています。なお、生成AIの回答には不正確な情報が含まれる可能性があり、上映情報などは公式サイトで確認するよう求めています。
こうした仕組みの魅力は、情報を探す途中で、自分の気持ちも言葉にできるところにありそうです。
人間の友人は、いつでも話を聞けるわけではありません。恋人と映画の好みが一致するとも限りません。こちらが余韻に浸っている横で、相手は夕食の店を探している。どちらも悪くないのに、少し寂しい。そんな場面は想像しやすいのではないでしょうか。
恋人に「全部」を求めていませんか
恋人や配偶者には、さまざまな役割を期待しがちです。ときめかせてほしい。悩みを聞いてほしい。生活を支え合いたい。そのうえ、趣味も笑いのツボも合っていてほしい。
一人の人間に、ずいぶん多くを求めています。
映画の話は映画好きの友人と、仕事の悩みは同僚と。それぞれ別の相手に話してもよいはずです。その選択肢にAIが加わることで、人間関係の負担が軽くなる可能性もあるでしょう。
趣味が合わないという理由だけで、身近な相手を「私を理解してくれない人」と決めつけずに済むかもしれません。AIとの会話で知った映画に、友人を誘うことも考えられます。
もちろん、これは今回のサービスで確認された効果ではありません。趣味の相談をAIに任せられるとしたら、人との付き合い方はどう変わるのかという問いです。
気になるのは、自分の都合で始められる会話に慣れたとき、相手の都合を待つ時間をどう感じるようになるかです。人間関係には、返事を待ったり、相手の話を聞いたりする時間も含まれています。
好みが違う相手と話す面白さ
人との会話では、期待した答えが返ってこないことがあります。感動した作品を退屈だったと言われたり、見向きもしなかった映画を熱心に勧められたりします。
気分を害することもあるでしょう。それでも、話を聞くうちに、作品の見え方が変わることがあります。相手がどんな経験をしてきたのかを知り、感想の違いに納得することもあります。
AIからも、自分では思いつかなかった見方を得られるかもしれません。一方、人間の相手とは、映画館へ向かう道や、上映後に入った店まで含めて、同じ日の記憶を重ねていけます。
映画の相談までAIにできる時代には、人間に求めるものも、少し整理されていくのではないでしょうか。
すべての好みが一致することより、違う感想にも耳を傾けられること。「その映画、私は好きじゃなかった」と言われても、次も一緒に出かけたいと思えること。
趣味の話に付き合ってくれる存在が増えるほど、そんな関係の価値が、かえってはっきりしてくる気がします。







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