
「パワハラを受けるのは、あなたが傲慢だからだ」。
乱暴にまとめるとそういう主張の本を読んで、最初はむっとした。被害を受けている人にそれを言うのかと思ったのである。
著者自身もパワハラを経験している。そして「私の世界はすべて私がつくっている」とするフラクタル心理学を実践し続けた結果、苦しみは消え、陰湿な攻撃をしてきた相手にさえ心から愛と感謝が湧くようになったと書く。「偽善ではなく」とわざわざ断っている(ここまで言い切るのだから本気なのだろう)。
『わたしを変える魔法 フラクタル心理学でもっと幸せな未来をつくる』(白石美帆 著)同文舘出版
理屈はこうだ。フラクタル心理学では、人生に問題をつくり出す思考を「傲慢」「怠慢」「無知」の3つとする。幼いころに「親より自分のほうが偉い」と勘違いし、その見下しの思考をくり返すと、自分を見下す人が目の前に現れる。まわりを見下していれば、部下や仕事仲間に無能な人が集まってくる。見下すとは相手を自分以下と決めることだから、自分以上にできる人は現れようがないという理屈である。
この最後の部分には、うなずくしかなかった。採用の仕事で1,000社を超える企業に関わってきた立場から言えば、「うちには使える人間がいない」という嘆きは、部下の側だけを見ていても解けない話だと思う。部下が無能なのか、そう決めた上司の目が曇っているのか、一度は疑ってみたほうがいい。
著者のすすめる対処は「思考回路の修正文」だ。大人の自分が、イメージのなかの6歳以下の自分に語りかける。「あなたは、お父さんやお母さんよりも、自分が上だと思っているね」で始まり、「さあ、上の人の言うことを聞こうね」で終わる。声に出すには照れくさい読み物だが、6歳の自分に向けた言葉だと思えばこの口調になるのも当然か。
ただ、ここまで読んでも最初の引っかかりは消えなかった。上司の怒鳴り声や人格を否定する言葉が毎日続いているなら、自分の傲慢を探すより先に、その場から身を守るほうが急ぎだろう。職場の相談窓口でも公的な労働相談でもいいので外に助けを求め、修正文はそのあとで読めば足りると私は思う。
著者は、今は困っていない人にも「転ばぬ先の杖」として修正文を読むようすすめている。私が納得したのはむしろこちらの使い方で、人を見下しかけている自分に気づくための点検表だと思えば、6歳の自分に語りかけるのも悪くない。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、作家)
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