中国に秘密に雇われたアメリカ学者はノーベル平和賞にも関与した(古森 義久)

顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

アメリカ国内での中国側スパイの活動が摘発されているが、中でも注視されたのはオハイオ州立大学の著名教授が中国政府の海外人材獲得の秘密徴募組織「千人計画」に長年加わりながらその事実を隠して、アメリカ連邦政府機関の研究資金を受け取っていたという事例だった。

オハイオ州立大学は連邦捜査局(FBI)などの摘発を受けて、その過去の不正を認める形で連邦政府に210万ドル(約3億3千万円)という巨額の賠償金を支払った。

この事件は今年8月末に公表されたが、その後、FBI長官が議会で中国のスパイ活動の危険を強調した。その上、この中国の秘密計画に参加していた学者が2007年のノーベル平和賞にも寄与したとされていた事実が明らかとなり、さらに話題の輪を広げることとなった。

アメリカ連邦政府の司法省がオハイオ州立大学との間で8月31日に交わした問題の「解決合意文書」は以下の骨子を事実として記していた。

  • 同大学教授の衛星測地学や海面地球力学の専門のC.K.シュムは2014年頃から中国政府の対外人材徴募組織の「千人計画」に加わり、中国政府から高額の資金を得て、中国側の大学や研究機関に協力していたが、その事実を秘密にしていた。
  • シュムは同大学の研究活動としてアメリカ連邦政府の航空宇宙局(NASA)や全米科学財団(NSA)からの高額の研究助成金を得ていた。アメリカ政府の公的資金を得る研究者は他の国家機関の資金を得ることは禁止されている。
  • シュムは「千人計画」への関与を2019年にはオハイオ州立大学当局に簡単に報告したが、同大学はアメリカ政府へのその実態の報告という法的義務を2023年まで怠っていた。同大学は同年にはシュムを教授職から解任し、シュムの下にいた研究員ユー・ザンをも解雇した。
  • オハイオ州立大学はこの違法行動を認める形で連邦政府に210万ドルの「和解金」という名称の事実上の賠償金を支払い、その事実を自主的に公表した。

中国の「千人計画」は共産党政権が自国の軍事にも絡む高度技術を他の諸国から取得するために、各国の優秀な学者や技術者を巨額の報酬を出して、秘密裡に雇う野心的なプログラムとして知られている。

アメリカではハーバード大学の化学生物学部長だったチャールズ・リーバー教授が「千人計画」に密かに加わり、同大学やアメリカ連邦政府機関からの給料と研究資金を得ながら中国側からも毎月5万ドルの給料と年間150万ドルの研究助成金を受け取っていたことを2021年に暴かれ、逮捕されて有罪となった。

しかし今回のシュム元教授についてはアメリカ側の各メディアなどの調査により、同元教授が2007年のアル・ゴア元副大統領の気候変動防止への貢献という名目でのノーベル平和賞受賞に協力していたことが広範に報道された。シュム教授はゴア氏の努力に寄与したとされ、正式の受賞者とはならなかったが、「協力者」として公式の場でも紹介されていた。

なお、シュム元教授は中国系のアメリカ人学者としてオハイオ州立大学に長年、勤務してきた。

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古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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