中小企業が多すぎるから、あなたは貧しい

日本人の給料が上がらない。物価は上昇するのに、生活は一向に豊かにならない。政府は企業に賃上げを求め、企業経営者は「賃上げの原資がない」と答える。

しかし、そもそも賃上げの原資を生み出せない企業が大量に存在することこそ、日本経済の問題ではないだろうか。

私は2017年初頭まで長年、中小製造業の経営に携わってきた。その経験からも、日本には一つの根本的な問題があると考えている。

日本には、成長しないまま長く存続しているゾンビ中小企業が多すぎるのだ。

これは中小企業で働く人々を批判する話ではない。むしろ、その人々の生活を豊かにするために、今の中小企業政策をすぐに変えるべきだという話である。

従業員の7割弱を雇用しても、賃金は5割強

日本企業の圧倒的多数は中小企業である。政府はこれまで、この構造を日本経済の強みとして説明してきた。中小企業は地域経済を支え、雇用を守り、日本のものづくりを支えている。確かに、その役割は大きい。

しかし、雇用を守ることと、従業員を豊かにすることは同じではない。

財務省が2026年4月に公表した資料「人口減少社会の中での総合的な国力の強化」には、興味深い数字が掲載されている。

2024年度の法人企業統計によると、資本金1億円未満の中小企業が占める割合は、次のとおりだ(※金融・保険業を除く。財務省の資本金による企業規模区分に基づく)。

  • 従業員数:67.1%
  • 賃金総額:53.7%
  • 付加価値額:48.2%
  • 設備投資額:35.3%

日本の労働者の約3分の2が、企業全体の付加価値の半分弱しか生み出していない企業群で働いていることになる。しかも、中小企業の雇用比率が長年ほぼ変わらない一方、賃金や付加価値に占める比率は低下傾向にある。

これは深刻な問題だ。

もちろん、業種や雇用形態の違いがあり、これだけで個々の従業員の能力や働きぶりを比較することはできない。それでも、日本の賃金が上がらない構造的な理由の一端を示している。

なぜ中小企業は給料を上げられないのか

原因の一つは、生産性の低さである。中小企業は大企業と比べ、設備投資や研究開発、デジタル化に十分な資金を投じにくい。例えば、従業員20人の工場にも、経理、総務、営業、品質管理などの業務が必要である。同じような工場が10社あれば、10社それぞれに経理事務や管理業務が発生する。

ところが、これらの企業が経営統合すれば、会計システムや管理部門、設備投資を共通化できる可能性がある。従来の管理業務に従事していた人材を、営業や開発など付加価値を生む業務に配置することもできる。

もちろん、統合しただけで生産性が向上するわけではない。それでも、小規模な企業が個別に経営するより、規模の経済を実現しやすくなる場合は多い。

さらに、中小企業には経営者個人の能力が会社の成長を左右するという問題もある。優秀な人材を採用しても、経営者が権限を委譲しなければ、その能力は十分に発揮されない。

企業が成長すれば、専門的な知識を持つ人材を採用し、経営を組織化しなければならない。しかし、それを避け、経営者自身がすべてを決める体制を維持する会社も多い。

その結果、会社はいつまでも小さいままである。

経営者は自分の地位を守れるかもしれない。しかし、従業員には成長機会も高い賃金も与えられない。希望が全くない。

自民党は「中小企業の自称経営者の保身」を優先しすぎた

自民党の中小企業政策の基本的な考え方は、長年にわたって企業の存続と雇用の維持に重点を置いてきた。信用保証、政策金融、補助金、各種の経営支援制度など、中小企業を支える政策は数多い。

もちろん、こうした制度には必要性がある。景気後退や災害など、一時的な経営危機から企業を救うことには社会的な意味がある。

問題は、競争力を失い、事業を成長させる見通しもない企業まで、長期的に存続させることが望ましいのかという点だ。

OECDの2026年の対日経済審査は、日本では生産性の低い企業から高い企業への資源移動が十分に進んでいないと指摘している。生産性の低い企業が人材を抱え続ければ、成長できる企業が人材を確保しにくくなる。

人手不足なのに、給料が上がらない。この一見矛盾した現象の背景には、労働力が生産性の高い企業に十分移動していないという問題がある。

本来、企業が高い賃金を支払えなくなれば、経営者は事業の高付加価値化、生産性改善、事業売却、他社との統合などを検討しなければならない。それでも競争力を回復できない企業は、事業から撤退することも一つの選択肢となる。

重要なのは、会社という法人格を残すことではなく、その会社で働く人の技能や経験、顧客との取引、製造技術などを生かし続けることだ。

守るべきなのは会社の数ではなく、働く人の生活である。

中小企業を減らすことは、雇用を減らすことではない

「中小企業が減れば失業者が増える」という反論があるだろう。確かに、企業の退出が拙速に進めば、地域の雇用や生活に悪影響が生じる。しかし、会社が10社から5社になったからといって、従業員まで半分に減るとは限らない。

例えば、同業の中小製造業が経営統合し、重複する業務を削減しながら、生産設備の稼働率を高め、海外への販路を拡大できればどうなるだろうか。売上高や付加価値が増え、従業員の賃金を引き上げられる可能性がある。必要なのは、単純な企業数の削減ではない。成長できる企業への人材と資本の集約である。

そのためには、政府の政策も変える必要がある。

第一に、中小企業への支援は、現状維持よりも生産性向上や成長投資を重視するべきだ。

第二に、M&Aや事業承継を大幅に促進し、経営者が交代しても事業と雇用を維持できる仕組みを整えるべきだ。

第三に、労働者がより生産性の高い企業へ移れるよう、職業訓練や転職支援を充実させる必要がある。

第四に、大企業による不当な買いたたきを防ぎ、適正な価格転嫁を実現しなければならない。中小企業の収益力不足には、取引先の価格決定力という問題も存在するからだ。

もちろん、経営統合が過度に進み、地域で独占や寡占が発生することも避けなければならない。

中小企業の社長の地位だけを守るために、従業員が貧しくなっていないか

誤解してほしくないのは、すべての中小企業が低生産性だと言っているわけではないということだ。高度な技術を持ち、世界市場で競争し、大企業以上の利益率や労働生産性を実現している中小企業は存在する。こうした企業は、むしろ積極的に成長を支援するべきだろう。

また、地域に不可欠なサービスを提供している小規模事業者もある。市場原理だけで、その存在意義を判断することはできない。

しかし、従業員に十分な賃金を支払えず、成長のための投資もせず、経営者だけが会社の存続に固執しているのであれば、それは誰のための経営なのだろうか。

重要なことなので強調しておきたいが、中小企業の経営者であること自体が、社会的な価値を持つわけではない。

価値があるのは、顧客に真に必要とされる製品やサービスを提供し、十分な利益を生み出し、従業員に適切な賃金を支払うことである。

日本経済に必要なのは、中小企業を無条件に守る政策から、中小企業が成長し、必要に応じて統合・再編される政策への転換だ。

企業の数が多いことを誇る時代は終わった。

日本が目指すべきなのは、企業がたくさんある国ではない。働く人が豊かになれる企業がたくさんある国である。

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