周波数オークションについては、これまで20年近く論争が行なわれ、学問的にはほぼ結論が出ています。それはディスカッションペーパーに簡単にまとめましたが、松本さんの質問にそってお答えすると、
1)オークションでは、「万一の落選」を恐れなければならないため、どうしても高値応札となり、このことが、結果として肝腎の設備投資を遅らせて、サービスの質を落としたり、サービスコストを上昇させたりすることにつながる恐れがある。(欧州の3Gサービスの充実が遅れたのはこれに起因した。)
高値で落札するwinner’s curseは、重要な問題です。3Gオークションはタイミングが余りにも悪すぎましたね。ただ、これは国有地の競売などでも起こることで、自己責任です。もうけも損も100%企業が負担するのが、資本主義の原則です。電波に限ってオークションをやめる理由にはなりません。間違った会社が免許を得てサービスができなくなる事態は、IPモバイルのように美人投票でも起こります。
2)これまでの周波数の割り当ては「済んだこと」としてそのままにされ、新しい周波数の割当のみにオークションが適用されるとすれば、結果として、新しい周波数割当に頼らざるを得ない新規事業者に「既存事業者に対するコストハンディキャップ」を課することになり、「既得権者の保護」につながる。
これは賛成です。今まで無料で割り当てた帯域も、免許の更新のときオークションにかけるべきです。ただこれは政治的にはまず不可能(他の国でもやっていない)なので、これを条件にすると、永遠にオークションはできないでしょう。
3)オークションにかかる周波数帯が限られたものであれば、大きな資金力を持つ既存事業者に、「敢えて採算を無視した高値で入札して、新規参入者を締め出す」オプションを与えることになる。(新規参入者を締め出せれば、仮に取得するために投じた大金が無駄遣いになっても、全体として採算が合う。)
これも昔から議論のある「所得効果」です。この問題を是正しようと、PCSオークションでは、中小企業むけの帯域が設けられたりしましたが、かえって落札したものの営業開始できずに経営が破綻するなど、トラブルのもとになりました。基本的に、企業の所得というのは収益の上がる事業であれば借り入れでまかなえるので、問題にならない。資金力のあるキャリアが赤字覚悟で高値入札する可能性はありますが、なるべく広い帯域を一挙にオークションにかけ、1社1バンドと決めれば問題ないでしょう。
4)技術や市場の本質を理解しない企業が「勘違い」によって高値落札し、事業化の途中で断念したり、サービス開始後に破綻したりすると、大きな経済的ロスが生じるのみならず、貴重な周波数が長期間にわたり使われず、その期間中、ユーザーは「よりよいサービス」を受ける機会を逸失することになる。
経営が破綻してサービスが開始できない場合には、secondary marketで免許を売却できるようにすればよい。今でも企業買収によって同様のことは可能です。電波の第二市場については、経済財政諮問会議でも提言されましたが、そのためにはまず第一市場(オークション)が必要です。
5)高値入札の結果得られた高額の収入は、そのまま国庫に納められ、一般財源として運用される可能性があり、こうなると、国が本来は最も育成していかねばならぬ筈の通信情報産業から、他産業への「資金の移転」が行われる結果になってしまう。
これもNoamが批判した点ですが、DPにも書いたように、逆に周波数だけオークションを行なわないことは、他の産業から携帯電話業者への所得移転です。日本でもっとも高い利益を上げている携帯電話事業を、国家が補助する理由は見当たりません。
先週のASCII.jpにも書きましたが、総務省は1.5GHz帯と1.7GHz帯を既存4社に割り当てるつもりのようです。2.5GHz帯では美人投票をやるところまで前進したのに、これでは昔の「一本化工作」に逆戻りです。日本経済に必要なのは、景気対策ではなく競争の導入だということを役所が理解するのは、いつのことでしょうか。