オバマ米大統領が、法人税の減税に言及しました。「法人税は不合理な税だ」というのは、半世紀前にフリードマンが指摘して以来、経済学者のコンセンサスです。Alesina-Zingalesは投資減税を提言し、Barroは「法人税の廃止がベストだ」としています。オバマ政権の顧問であるReichも、法人税の廃止を提言しています。
利益に法人税を課税するとともに配当にも所得税を課税するのは、二重課税であるばかりでなく、企業の財務政策をゆがめるものです。Modigliani-Miller理論で知られるように、企業が資金を株式で調達するのと負債で調達するのは、資源配分の効率の観点からは同じですが、法人税がある場合には負債で調達することが合理的です。配当前の利益には課税されるのに対して、支払利息は経費として利益から控除されるからです。
このような税制のゆがみを利用して配当を支払利息に変えるregulatory arbitrageが、派生証券の最大の機能です。そのためケイマン諸島などを使ったオフショアの「影の銀行システム」が発達し、これによって今回の危機の全貌がわからなくなり、その収拾が困難になりました。法人税をなくせば、こうした非生産的な租税回避はなくなり、金融システムの安定性も高まるでしょう。
たとえ法人税を廃止しても、その税収がなくなるわけではありません。約40%の法人税をなくすと、利益が100%株主に配当されます。株主の所得税が平均30%だとすると、30%は国庫に入るわけです。それまでの所得税は残り60%の30%、つまり18%だから、法人税と合計すると58%、つまり差し引き28%税収が減りますが、そのぶん所得税や消費税を増税し、税収中立にすることは可能です。
法人税を下げることは、「空洞化」を避ける上でも重要です。日本の法人税は国際的にみても高く、もっとも収益の高いグローバル企業が海外生産に移行する原因になっています。他方、法人税を低く設定したリヒテンシュタインやアイルランドには、海外の資本が流入し、一人あたりGDPはトップクラスです。これによって税収も増えるので、租税特別措置をすべて廃止すれば、法人税の減税によって税収が増える可能性もあります。
最大の障害は「大企業優遇税制だ」という類の政治的な批判です。これは資源配分と所得分配を混同して問題をイデオロギー化する誤りで、オバマ氏の世代には無縁だと思いますが、日本では野党が許さないでしょう。ただ、アメリカでバラマキ財政政策に効果がないことがはっきりすれば、投資減税や法人税減税が検討される可能性はあります。所得分配は、民主党も提案している給付つき税額控除(負の所得税)で補正すればよい。これによって合理的な税制改革が行なわれるとすれば、経済危機も災い転じて福となるでしょう。