ホワイトスペースの前に - 真野 浩

真野 浩

 先日、日経コンピュータの記者から電波行政に関する取材を受けたが、その関連の記事が掲載された号が送られて来た。 「ICT埋蔵金2兆円が拓く100兆円市場」という特集タイトルで、電波オークションの話題を中心に、ホワイトスペースの解説などがされている。 このアゴラのメンバー方も、沢山取材元になっている。


 電波資源の割当については、スペクトラムとアプリケーションを分離し、従来からのデマンドベースでの裁量割当から、共有プラットフォーム化への転換が必要だと言う事は、もう10年以上も前から提案しているのだけど、残念ながらまだまだ理解が得られていない。
 これは、もちろん電波行政に関わる行政側の知識や判断に依存する部分が多いのだが、長年技術に関わって来た者としては、産学を問わず日本の技術者の質の問題も多いにあるのではないと感じている。
 最近の15年ぐらいの間、日本ではいくつかの新しい電波利用技術がブームというか話題になった。 スペクトラム拡散、ブルートゥース、SFDR、VOFDM、UWB、WiMAXなどがそうだが、イスラエルやアメリカなどの海外で話題になった技術に、追いつけ追い越せ的に火がついた感じだった。 しかして、その実態はというと、初期に紹介された宣伝文句とは、ずいぶんとかけ離れた成果であり、結果だったものが多いように思われる。 これは、海外のトレンドをいち早く日本に紹介することとが研究者としてのステータスみたいに扱われている背景と、それに乗じてている研究者がいることが原因ではないだろうか。 電波技術に限ったことではないけれど、他者の技術を紹介するのであれば、その技術に対する目利きが必要なのだけど、どうやらブームというのは、そういう目利きを誤らせるようだ。 さらには、誇張されたスペックを必要以上に先導するメディアや、ちょいかじりな評論家がこのブームを増長し、結果として良い技術の芽までも、潰してしまったように思える。 WiMAXにつていは、「非見通し、50km、75Mbps、全てのPCにチップ搭載」という宣伝文句が、肝心な電力、周波数、周波数帯域という物理的な割当さえ決まらないうちから、何年もメディアを賑わせていた。
 こういう時に、無線の研究者や技術者が、正しい評価を示して、出来る事と出来ない事をきちんと市場に説明しないというのは、いろんな意味で不幸の連鎖を生んでいると思う。
 というわけで、ブームのホワイトスペースだけど、これとてもホワイトスペース=クリアバンドのような宣伝が先行するのは、とても危険だと思う。 実際にFCC Report and Order では、データーベースとセンシングの二つの共用の為のアクセス条件がある。 また、同じ北米でも、カナダの場合には、根本的にルーラルエリアのFWA的な利用を想定した具体的な案が検討されている。 先行する各国の状況や情報を正しく理解すれば、ホワイトスペース=クリアバンド=何でも出来る ではない事が理解されるだろうが、またしてもメディアと一部の研究者が、ブームに乗るだけの宣伝をすれば、結局はこの新しい取り組みも死蔵してしまうのではないだうろか。