*今月から、毎日「今日のコラム」と題して定期的に記事を掲載します。
10月5日号の「アエラ」に、民主党と労働組合の関係について論じた記事が出ています。タイトルは「応援団に有利な政策導入」となっており、「NTTの見直し論議はあっけなく反故にされそうだ。労組に従属的な民主党内の『小さな族議員』が存在感を発揮し始めた」という太字の文章が、この表題に続いています。私のコメントも取り上げてくれているからお世辞を言うわけではありませんが、非常にバランスのとれた良い記事だと思いました。
中でも良かったのは、連合の次期会長に擬せられている古賀事務局長のインタービュー記事です。「自民党からは『労組支配』という批判が出ていますが」という問いかけに対しては、「くだらんな。55年体制下の反体制か体制かという議論です。そういう戦術だから自民党は負けたんですよ」と切り捨てていますが、「政権党は国民政党です。支援団体の利害だけの政策を出来ないのは当然でしょう。諸外国のナショナルセンターに聞いても、支援する政党が政権をとったときほどやりにくいことはないそうです(笑い)」という率直なコメントも出ています。
(ちなみに、ここで古賀氏が槍玉に挙げている「自民党の戦術」とは、「民主党と労働組合の革命計画」とか、「労働組合が日本を侵略する日」とかいった、相当どぎついキャッチフレーズの「労組批判一色のパンフレット」を選挙中にばら撒いたことなどを指しています。私は見たことはなかったのですが、このようなパンフレットの写真もこの記事についていました。成程、これでは「時代錯誤」と言われても仕方ないですね。)
さて、原口総務大臣とNTT労組出身の内藤総務副大臣のコンビが、就任するや否や、早々と「露骨にNTT寄りの発言」をされたことについては、私自身を含め、驚いた人が多かったのですが、これがNTT労組の「希望」だったのか、NTTの経営者の「希望」だったのかが分からず、訝しく思われた方も多かったのではないかと思います。しかし、その謎解きはすぐに出来ます。
「労使」は、通常は利害が対立するものであり、それが証拠に、これまで、「経団連」や各企業の経営者は自民党を、「連合」や各労働組合は社民党、或いは民主党を、それぞれ応援してきました。しかし、「既得権の確保」ということになると、どうやら両者の思惑は一致するようです。
そもそも「国の通信行政のあり方」などという問題は、普通なら労働組合とはあまり関係のない問題です。労働組合が、「労組員、或いは一般の労働者全員の利益」を守るために、税制や、派遣法などを含む労働関連の諸法規に関心を持つのは当然理解できますが、「光通信時代における競争政策」などといった問題に関心を示すのは、如何にも奇妙です。しかし、「折角これまでは『古きよき独占体制』下で平和な毎日を送っていたのに、競争が激しくなって、今後の生活水準の見通しが不安定になるのは困る」という考えから、この問題に興味を持つのだとしたら、それはそれで理解出来ることです。
米国の悲劇は、ビッグスリーの経営者が、「長い歴史の中で強大な力を身につけるに至った労働組合との蜜月関係を続けていく」状況を結局変えられず、その為に、日本や欧州のメーカーに対する競争力がどんどん落ちていったことなのですが、私には、NTTの現在の姿が、一部このビッグスリーの姿に重なって見えてなりません。米国では「ビッグスリーの力が米国の力」というような考えは、とっくの昔に消え去っていますが、日本では、「NTTの力が日本の情報通信産業の力」というような誤解が、政治家の先生方の間にはなお根強くあるように思え、私としてはこれが大変気掛かりです。
昔から、NTTの社長は「業務系(文科系)と技術系が交互に勤める」ということが不文律になっていたようですが、ここで「業務系」というのは「労務系」と同義です。即ち、「労働組合との関係を取り仕切って成果を上げてきた人」でなければ、技術者でない限りは、NTTの社長にはなれないという不文律があったということです。つまり、NTTの経営者とNTTの労組は、多くの点で「共通の目標のために共に闘う間柄」なのだと見てもよいのでしょう。
しかし、このような例は、私の知る限り、諸外国には全くありません。(共産政権下での国営事業のことは知りませんが…。)
AT&TのCEOのRandall Stephensenは、財務のエキスパートですし、同じ米国のVerizonのCEOであるIvan Seidenbergは、現場でたたき上げながら、大学で数学を学び、後にはマーケティングを学んでMBAをとっています。British TelecomのCEOのIvan Livingstonは、Bank of America出身で、公認会計士の資格を持っており、同じ英国のVodafone(世界第2位の携帯通信事業者)のCEOであるVittorio Colaoは、イタリア人ですが、McKinsey出身で、Harvard のMBAです。
労働組合には、労働組合としての重要な役割があり、社会や経済のあり方についても、労働者の一般的な立場から色々な注文をつけるのは当然のことでしょうし、労働組合を「その支持基盤の一つ」とする民主党が、色々な局面で彼等の主張を斟酌するのも当然でしょう。しかし、動きの激しいハイテク産業である「情報通信産業」の「国際競争力強化」を考えるときに、伝統的な通信事業会社の労組の意見を聞くというのは、如何にも頓珍漢です。
残念ながら、世界におけるハイテク企業間の熾烈な競争は、「何よりも労働者の生活と権利を守ることを第一義に考える」タイプの経営者の手には、とても負えないと思います。(これは、そういう経営者が「立派かどうか」という問題ではなく、要するに、「世界では競争出来ない」という問題なのです。)
政権党となった民主党は、それぞれの分野で、「日本国民全体の為に」何をしなければならないかを、これから一つ一つ決めていかねばなりません。それは、彼等を今回の選挙で応援してくれた人達、来年の選挙で応援してくれそうな人達の思惑とは、紐つけられてはならない事です。
原口総務大臣は、将来の情報通信産業のあり方を決める為に、先ずは学識経験者等からなる「タスクフォース」をつくることを決めました。取り敢えずはこの「タスクフォース」の人選に注目したいと思います。また、ここでの議論が、これまでのように「官僚が作った報告書の追認に過ぎない」という批判を受けることがないように、その議論の全てをオープンにする(インターネット上で公開する事が望ましい)一方、要所々々では、タスクフォースに参加していない人達の反論や意見も、幅広く受け入れていくことを期待しています。
コメント
全く共感できます。古賀事務局長の「政権党は国民政党です。支援団体の利害だけの政策を出来ないのは当然でしょう。…」という発言も信じたい。官僚組織同様、労組や民間企業もその存在意義をかけて、聖戦に様々な圧力を掛けるのはある意味当然ですが、政権与党は「国民政党」であるという自覚や気概を持ち続けて頂きたいものです。
>聖戦
「政権」のミスでした。