CO2 25%削減は実質31%の削減 - 岡田克敏

岡田 克敏

 温室効果ガスを2020年までに90年比で25%削減するという鳩山演説は世界の賞賛を浴びました。ところで、マスコミにしばしば登場する25%という数値ですが、温室効果ガスのCO2換算排出量は90年(12億6100万トン)に比べ、07年(13億7400万トン)は約9%増加しているので、07年を基準にすれば約31%削減しなくてはなりません。


 削減の影響をあれこれ言うとき、19年も前の排出量を基準にするのはおかしいわけで、直近の排出量を基準にすべきでしょう。現実に意味があるのは31%の削減です。削減の困難さを考えると、6ポイントの差は大きな意味があります。

 マスコミの論調に31%という表現が見られないのは、その内容、とりわけ数値に対するマスコミの無関心・無理解を示しているように思います。少なくとも削減の影響を真面目に考える意思があれば31%を前提にするのは当然であり、31%に触れずに論評するのは不誠実であり、事態を過小評価させる恐れがあります。また一部のメディアにあっては、削減幅を小さく見せようという配慮が働いたのかもしれません。

 31%の削減がはたして実現可能か、またどんな影響をもたらすかは、はっきりしたことは誰にもわからないと思います。賛成意見も反対意見もありますが、どちらにも明確な根拠があるわけではなく、主観的な判断によるところが大きいと考えてよいでしょう。朝日と毎日は予想通りの民主党方針に賛成ですが、不利益に対する十分な検討がなされたのでしょうか。

 10月5日の読売新聞電子版には、鳩山政権の公約を達成するには、京都議定書以後の13年~20年の8年間に海外から10億トンもの排出量購入が必要となることがドイツ銀行の報告で明らかになった、とあります。そしてそれに必要な費用は今の相場で1兆7000億円だそうです。

 重要な試算が国内でなくドイツで先に発表されるのも妙な話ですが、彼らはCO2削減の経済的な影響に敏感だとも考えられます。また同報告には、日本の需要増で世界の排出量相場が押し上げられる可能性も示されているそうです。注意すべきは、日本のCO2削減が計画通り実現しないことを想定している点です。おそらくその根拠のひとつは日本の省エネがもっとも進んでおり、削減余地が少ないことにあるのでしょう。

 日本の90年比25%減は05年比では30%減であり、米国の14%減、EUの13%減に比べ、2倍以上です。 各国が大きい削減目標に二の足を踏むのは国益を損なうなど、それなりの理由がある筈です。まあ日本の友愛外交はナイーブという評価を受けそうですが。

 日本の公約が賞賛されたのは日本が損な役割を引き受けたためで、それが他国の利益につながるからでしょう。外交でタダの賞賛はないと考えるべきです。首相のパーフォーマンスの対価としては少々高いものにつくのではないでしょうか。そのために今後10年以上にわたり負担を強いられる可能性があるのは国民です。

 先進国中で最悪の政府債務を抱え、OECDに「財政の持続可能性に深刻な懸念」と指摘される国が、長期にわたって経済の足枷となるような政策をこんな簡単に決めてしまってよいのか、という気もするのですが。

コメント

  1. wishborn2400 より:

    温室効果ガスの排出抑制に関する議論については、かつての列強による世界支配の理屈を思い出させるものがあります。やらなければやられるという自己防衛の理屈や、強国の側の理屈による国際法にもとづくという支配の正当化など。その駆け引きのなかで、支配される側の論理というものは無視され、忘れられていました。
    温室効果ガスの削減については、これまで、そしてこれから大量の温室効果ガスを排出してきた、または排出しようとしている国家間の外交的な綱引きのなかで、そうではない小国の受ける影響と意見はどこまで考慮されているのでしょうか?
    日本の削減目標が、東欧の含んだ欧州に比して不公平であることなどへの疑義等はもっともであるとしても、先進国間の公平性を担保するという名目によって削減目標が緩和された場合に影響を受ける国とその国民に対しては不公平どころの話ではないでしょう。