アメリカ合衆国が台湾への武器売却を決定したことに、中国政府は怒っている。あるいは怒っているポーズを強調している。
これに対して、2月1日付東京発ロイターは、グレグソン米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)が、国際問題に関するフォーラムで「米国は台湾の自衛能力を確かなものにする義務がある。米国はこの義務を遂行し、今後もそうする意志をもっている」と述べた、と報じた。
この発言に言う義務とは、国際的な約束ではない。1979年以来、台湾に関するアメリカの政策は台湾関係法を基礎としている。同法は、台湾へ防衛的な武器を供与すること、また台湾の人々の安全を危険にさらすような武力や強制力にはアメリカが抵抗する能力を維持すること、をアメリカの政策であると規定している。
この法律はアメリカの国内法であり、政府はこの法律に基づく義務を負っている。国防次官補の言う義務とはこれであり、国際約束ではない一方的なものだ。台湾の安全保障について、アメリカは国際的に拘束されていないだけではない。台湾にはアメリカ軍基地は存在しない。また台湾は独立国家ではなく、中国の一部であることをアメリカは認めている。それでも、中国が強く反発しているのは、台湾関係法とそれに基づく政策が効果的な抑止力を発揮していることを明確に示すものである。効果的な抑止力が働いて、中国は手を出せない。
ひるがえって、日本はどうか。日米安全保障条約という国家間の条約によってアメリカは義務を負っている。そして日本は、台湾や韓国、あるいはイスラエルのように、その存立自体が危機にさらされている状況にない独立国家である。自衛隊の近代的な装備を持った軍事力がある。
それに加えて、日本には、台湾にもイスラエルにも置かれていないアメリカ軍の基地がある。そこに配置されているアメリカ軍は小規模ではない。戦闘地域ではない外国におかれているアメリカ軍としては、ドイツに次ぐ世界第二位の規模である。これだけの規模のアメリカ軍がいなければ、日本の安全保障は守れないと言うのは本当なのであろうか。攻撃部隊である海兵隊は、日本の安全を危険にさらすような武力に抵抗する能力というよりは、敵を先制攻撃したり、あるいは反撃したりする能力を持つものだ。そのような能力を持つ部隊の存在が日本の抑止力を構成することは当然であるが、日本が必要とする抑止力として不可欠であるか否かについては大いに疑問がある。
普天間基地をめぐる議論が長引いているこの機会に、日本が必要な抑止力とはどのようなものなのか、じっくり議論をしてはどうであろうか。
吉原修
コメント
日本に駐留しているアメリカ軍は、日本のためだけにあるわけではないし、だからこそ、そのための日本の負担に理由があると言えます。歴史的責任でもあると言えるかもしれません。
沖縄駐留米軍が極東で戦闘行為を行う蓋然性が最も高いのは台湾有事の場合だ。台湾防衛のために中国が反対する武器を米国が台湾に売るのであれば、沖縄の米軍基地の一部を台湾に移転してもいいはずである。日本が台湾防衛のために沖縄米軍基地の費用の7割を負担して来た。台湾は日本の貢献に対して礼の一言も言っていない。そろそろ台湾は日本に恩返しをしてもいいのでは。日本政府も(中国に聞こえないよう)米軍台湾移転を主張すべきだ。
>hogeihantai氏
日本は「台湾の為に台湾防衛」をしてきたわけではなく、「日本の為に台湾防衛」をしてきたわけです。
日本のために防衛しているのですから、台湾が礼を言う必要はないでしょう。
台湾防衛の為の基地と理解しているのであれば、「なぜ台湾に基地をおかずに沖縄なのか?」「なぜ九州ではなく沖縄なのか?」などを、戦略レベルで考えるべきです。
海兵隊は大統領命令のみで動ける即応部隊です。台湾有事の際に即応で上陸作戦等を行ない、台湾防衛をする為にあります。数日耐えれば、他の地域から議会承認を得た部隊を送ることができますので。
「日本の抑止力」という言葉で、国土のみを守る程度の発想しか吉原修氏にはないようなので、レベルが低いと言わざる得ません。中国が仮想敵国という認識もないのでしょう。