「ゆうちょ限度額2000万円へ引き上げ」により民業圧迫の声が大きいので「民間銀行等の預金保険機構に対する保険料を引き下げよう」という話が出ているようです。この場合、最低でもペイオフも同時に「1000万円→2000万円」にしない限り、民業圧迫という問題は解消しないと思います。
ゆうちょの限度額引き上げについては、先週、アゴラに「『ゆうちょ預入限度額2000万円へ増額』は正しいか?!」を投稿しましたから、詳細は述べませんが、結局、ゆうちょは「国債受皿機関」でしかなく、財政破たん状態にある現状を踏まえて考えれば(※)、民間銀行等も「たとえ民業圧迫であったとしても、受けざるを得ない状態でしょう」ということになります。
(※)財政が破たん状態にあるという点についてもアゴラで「財政再建は『その後』で大丈夫?!」や「国債利回りが“今”低いから『大丈夫』って本当?!]
で述べております。
といっても、「民業圧迫」というところに「問題がある」とすれば、それは「ゆうちょ」というブランドが、そのまま「政府保証である」という点であり、民間銀行等の「預金保険料が高い」などという「銀行の経費レベル」の問題とは別の次元の話といえます。
小泉・竹中政権時代のゆうちょの民営化路線がそのまま続いているとすれば「ゆうちょ=政府保証」という図式は徐々に崩れていくことが期待できたのですが、亀井郵政担当大臣が行おうとしている路線は、これとはまるっきり反対ですから、国民は「ゆうちょ=政府保証」という意識を急速に取り戻しつつあります。しかも、つい1年半前に「リーマンショック」があり、米国の大手銀行や証券会社がつぶれていく様を、まざまざと見たわけですから、「預金」は「安全第一」と考えるのは当然だと思います。
ここで一般に「どこが安全な預け先か」というのは、なかなか判断できるものではありません。「自己資本比率が高い方が良いらしいよ」というくらいの情報は、かなり広がっているので、その点は認識できたとしても、そもそも「自己資本比率って、何?」という人の方が多いのも事実です。そのような中で「何を見て、安全と考えるか」といえば、やはり、「(規模が)大きい」という点になってしまいます。「大きな銀行だから」といって「安心できるわけではない」とわかってはいても、大きな銀行と小さな銀行を比べれば、「大きな銀行にしようかな」と思うものです。
したがって、ゆうちょ限度額が引き上げられれば、「大きい」という意味で預金者は資金をゆうちょに移そうというインセンティブが働くことになります。となれば、民業圧迫で一番の被害者は、信金信組・農協など地域金融機関といわれる部門になるでしょう。
とはいえ、本当に破たんした時「どうしよう」ということを考えて預金をするのであれば、ペイオフ限度額までの分散投資が有効であり、ゆうちょの限度額が2000万円に引き上げられてもペイオフはあくまでも「1000万円」ですから、実際には問題が起こらないように思われます。
しかし、ここで「ゆうちょ=政府保証」という図式が効いてくるわけです。
本当に何らかの理由でゆうちょが破たんするような場合、おそらく、多くの国民は「政府が何とかするだろう」と思うでしょうし、今もそう考えているのではないでしょうか。この部分が非常に大きな“安心感”として働くので、ペイオフが1000万円であって、他の金融機関には1000万円の分散投資をしていても、ゆうちょには2000万円まで預けようと考える人が増えるはずです。だから、ゆうちょ限度額引き上げにより、他の金融機関からの預け替えが増えるという意味で、民業が圧迫されるわけです。
したがって最低でも、ペイオフ自体を「1000万円→2000万円」して、しかも、その時の預金保険機構への保険料が「今と同じ」ということでなければ、民業圧迫という問題に対処したことにはなりません。
とはいえ・・・
ゆうちょの限度額を2000万円にしたいためにペイオフも2000万円にし、その預金保険機構への保険料を引き下げたとしても、預け先が「安全」であれば、できるだけまとめておきたいと思うのが「人情」です。つまり、規模も大きく、株主も政府だけであるゆうちょは他の金融機関よりも「安全」と考えるのはやむを得ないことなので、他の金融機関の預金を減らしても、ゆうちょの限度額まで預け入れようと考える人が出てくることになるのは、ある意味、当然といえます。
加えて、今のように低金利だと利便性のみでもインセンティブが生じることから、地方に行けば行くほどゆうちょの優位性が高まり、「1000万円→2000万円」なれば、かなりの部分がゆうちょに移動する可能性も否めません。
なので・・・
いろいろと手を尽くしても、結局は「地域金融機関からゆうちょへの資金シフト」は避けられないような気がします。
まぁ、民業圧迫によって地域金融機関等に多大な迷惑をかけても「ゆうちょ限度額引き上げ」をやる必要がある「何か」がそこにあるということでしょう。それは「国債の受け皿」かも、「(参議院選挙の)票田」かも、または、両方かもしれませんね。
コメント
ゆうちょ銀行を利息の付かない決済口座専門の銀行として位置付けることを提案したいです。
1万円札には1万円の価値があるというように、名目上の貨幣の額面価値を保証するのは国家の責任ですので、利息を付けなければ「ゆうちょ=政府保証」でも問題ないのではないでしょうか。
そして、ゆうちょ銀行が預った預金は、全額国債での運用を義務付ければ、預金は確実に保証されます。
資金需要が高まり、市場金利が上昇した時は、利息の付く民間銀行に預金が流出するので、市場原理に逆らうことなく、ゆうちょ銀行が購入できる国債の額に歯止めがかかります。
さらに、ゆうちょ銀行が、民間銀行の預金窓口委託を受けるようにすれば、銀行業への新規参入が促進されて市場が活性化されます。コンビニ店を開くような、小手先のサービス向上ゴッコよりもよいではないでしょうか。
livedoa555さん、コメントありがとうございます。
>ゆうちょ銀行を利息の付かない決済口座専門の銀行として位置付けることを提案したい
確かに、そのような考え方もありますね。
加えて、主たる産業のないような地方などでは民間の銀行などは営業自体が困難ですし、協同組織金融機関といえども、そこは同じですから、ゆうちょに任すという考え方もありでしょう。
とはいえ・・・
現状は「ゆうちょの有効な使い方」よりも「政治、または、財政の都合」という、国民が考える視点とは全く違ったところで決められています。しかも、そのつけはすべて国民が“将来”確実に負うことになるでしょう。さらに、ゆうちょが国債を買うなら、財政をもっと使ってもいいかと考える輩もいるようです(汗)
その辺りを「しっかりと訴える志士」が、民主党にも自民党にも、その他の党にも、見当たらないのが悲しいです。
すでに郵便局の窓口では、銀行でおろした数百万円を持ってきて、すでに郵貯に預けてある1000万円に加えたいという人々が毎日きているようですよ。
まだ決まったわけでもないのに、新聞で見ただけですぐ郵便局に大金を持ってきたり、コンマ数%の金利変動で頻繁に預け替えをしたり。。
それくらいのリテラシーで動かされているお金が日本中に山ほどあります。
akiteru2716さん、コメント&情報、ありがとうございます。
>銀行でおろした数百万円を持ってきて、すでに郵貯に預けてある1000万円に加えたいという人々が毎日きているようですよ
気が早いですねぇ~(大汗)
この低い金利で10何年も我慢できる国民は日本くらいでしょうね。「金融」というと「汚い」「危ない」「怖い」という人が多く、それでいて、勉強しない人ばかりですから・・・汗
政治家もひどいけど、それを意味出しているのは、日本国民であるということをもっと理解すべきですね。。。