海外資産運用 ー オフショア金融「第二幕」への前奏曲 ー 矢澤豊

矢澤 豊

最近になって、日本財務省/国税庁の国際的な活躍が報道されています。


3月31日には香港特別行政区政府と「課税権の調整や租税回避を防ぐための情報交換を目的とした租税協定を結ぶことで基本合意」と発表(コチラ)。

4月2日にはケイマン諸島との租税情報交換に関する基本合意への段取りが整ったという報道がありました(コチラ)。

それにしても、この記事中の「脱税の温床とされるタックスヘイブン(租税回避地)として知られるカリブ海の英国領ケイマン諸島」という表現は、まずいんじゃないでしょうか。ケイマン政府はノンビリしていますが、中国政府は、4月2日にはすかさず「租税回避地問題への国際的取り組みを支持、香港やマカオは該当しない=中国外務省報道官」と釘を刺しています(コチラ)。

財務・国税当局としては、このような報道の「アナウンス効果」と、「一罰百戒」とも思える脱税案件の摘発(とはいえ非道いケースがままありますが...たとえばコレ)を通じて、「ヘタなことをするとこわいよ、こわいよ」と国民にメッセージを送っているのでしょうか。

「一罰百戒」はひとまずわきに置いておくとしまして、私はこうした租税協定の締結は歓迎されるべき動きだと思っています。いや、正直申し上げまして、「やっとかよ!」と言いたい。

私が知っている範囲の話として、ケイマン諸島に話をしぼりますが、ケイマンが「有害な税制」を布く地域、つまりは「タックスヘイブン」としてブラックリストに乗りそうになり、あわててアメリカと「租税に関する情報交換の合意」(Tax Information Exchange Agreement、略してTIEAといいます)を締結したのは2001年11月の話です。

以後、OECDの枠組みで、タックスヘイブンへのプレッシャーが高まり、2003年にはTIEAがひな形化され、現在に至るまで約300の二国間TIEAが締結されています(コチラご参照あれ)。

ひるがえって日本は今年2月にバミューダと締結したのが最初(原文はコチラから閲覧できます)。今回、締結が予定されているケイマンとのそれが二つ目です。

いったい今まで何をしていたのか...。

90年代のバブル崩壊後、ケイマン籍法人を通じた証券化が、不良債権処理に多用された為、あまり立ち入ったことができなかったのか。それとも、イジワルな見方をすれば、内弁慶な日本官僚体質から、あまり租税政策における海外との協調という未知の世界にいままで踏み込めなかったのか。

こうした玉虫色の政策が生んだのは、「財政破綻」というリアルな危機感に怯え、「オフショア」「節税」という言葉に魅せられ、「とりあえず」と海外口座や、 海外投資をしてみた「なんとなく海外運用」資産家の群れです。国内とは比較にならない利回り(もちろんそれ相応のリスクがありますが)と、「知り合いから勧められて」というリスクマネジメント(?)...でも必要になったとき、ちゃんと合法に国内の自分の手元に戻せるかどうかわからない...でも、とにかく税金は払いたくない...その為に、海外旅行のたびにセッセと現金の運び屋...どうみてもカタギにはみえない人たちの集団です。

これが世界に冠たる経済大国「日本」の資産家、「富裕層」と呼ばれる人々なのかと思うと、正直暗澹たる気持ちにさせられます。(もちろん全部が全部そうとは限りませんが。)

私がいつも言うことですが、「節税」は手段です。人生の目的であってはなりません。

今回、日本から見た国際税制におけるグレーな部分に、租税協定やTIEAという媒体を通じて、明確なルール作りがなされることにより、こうした「なんとなく」なアウトロー海外資産運用が影を潜め、払うべき税はしっかり払い、大手をふって故郷たる祖国日本に錦を飾る、健全なメイド・イン・ジャパンの海外資産運用の成功者が増えることを期待しています。

これは今回の財務・国税当局の当面の意図ではないかもしれません。しかしこれが「法の支配」(Rule of Law)というやつです。そして、海外投資を通じて日本人が裕福になることは、歴史がそれを必要としているのです。

あるはずだった埋蔵金を掘り当てられず、大慌てでとるもとりあえず税金を搾取することだけに注力するのでなく、税制を通じた賢明なIncentiviseで、国民の意識と知見を高め、日本の国富を増加させましょう。

中国春秋時代、管仲は斉の桓公を補佐してこれを覇者と成らしめた。桓公が葵丘に会盟して覇者となったのが紀元前651年。管仲が没したのが紀元前645年である。斉の国(今の山東省あたり)のお家騒動では当初、管仲は桓公の敵方に組していた。しかし、かつての親友、鮑叔の命乞いで生きながらえ(「管鮑の交わり」)、その後、桓公をよく補佐して斉の富国強兵策を進めた。

管仲の著作とされる「管子」の中で、管仲は桓公との会話で次の言葉を述べている。

「万乗の国には必ず万金の賈(商人)あり。千乗の国には必ず千金の賈あり。百乗の国には必ず百金の賈あり。君の頼るところにあらざるなり。君の与うるところなり。」

戦車一万台を抱える強国には、必ず万金の資力を持つ豪商がおり、戦車千台の国には千金の富を持つ富商がいる。主君たるものはそれらの商人に重税を課すことにより国を富ますことを考えてはいけない。主君の政治が優れていて、国がよく治まっているからこそ商人たちはその国にやって来て、国をさらに富ませるのだ、と。