700MHz帯についてのまとめ - 池田信夫

池田 信夫

われわれが指摘し続けてきた問題が、ようやく原口総務相に届いたのはすばらしい。ウェブが政治を変えることができるかもしれないので、この問題について簡単にまとめておきます。くわしいことは、リンクを張った先の記事を読んでください。


周波数委員会で焦点になったのは、次世代携帯(LTE)の周波数割り当てが、図のように日本と海外でまったく異なり、世界のほとんどの地域で共通に使える端末が日本で使えなくなることでした。AWF(アジア太平洋の標準化団体)では700~800MHz帯の中でアップリンクとダウンリンクを行なうことになっており、アメリカではすでに700MHz帯がLTEに割り当てられています。ところが日本だけが730~770MHzをアップリンクに、915~950MHzをダウンリンクに使うことにし、AWFに提案さえしていない。


この最大の理由は、図からも明らかなように、他国がアップリンクに使っている770~806MHzを日本ではテレビ局のFPUが占拠しているからです。FPUというのは中継車から放送局にマイクロ波を飛ばす通信機材で、これを使うためには中継現場から放送局まで直線で電波が届かなければならない。昔は私も、現場に下見に行って局舎が見えるかどうか双眼鏡でチェックしたものです。

しかし都内からNHKの放送センターが見えないことでも明らかなように、今ではFPUで中継できる場所なんてほとんどない。中継は通信衛星を使ったSNG(satellite news gathering)でやるのが常識で、UHF帯のFPUを使うのはマラソンなどの移動中継のときだけだけです。移動中継の技術も進歩したので、現在では6GHz帯などのFPUが使われ、UHF帯はほとんど使われていない。

こうした利用実態については山田肇氏と私が調査し、2年前にパブリック・コメントも出し、総務省が誤った回答をしてきたので、われわれはこれにも反論しました。そのとき770MHz帯の利用実態を情報開示するよう総務省に求めましたが、彼らは答えなかった。

しかしその実態については、同じ770MHz帯を使っている特定ラジオマイク利用者連盟が詳細な日誌をつけています(マラソン中継のときA型ラジオマイクを使用停止しなければならないため)。その日誌によれば、たとえば2008年の5月1日には全国で129の会員がラジオマイクを使ったのに対して、放送局がFPUを使ったのは全国で1件だけ。5月にFPUが使われたのは全国で68回で、首都圏では9回、つまり3日に1回だけでした。

このような調整が煩雑なので、連盟はラジオマイクを他の周波数に移行するよう総務省に要請しています。特に輸入ラジオマイクはUHF帯の未利用帯域(ホワイトスペース)を使うので、同じ規格にすれば調整も必要なく、今より大きな帯域が使えるのですが、総務省は認めてくれない。ラジオマイクがなくなると、770MHz帯ががガラガラだという実態が白日のもとにさらされるからです。

どうしてもテレビ局がUHF帯でFPUを使いたければ、806MHzまでをすべてLTEに割り当て、その専用線を借りればよい(ラジオマイクも同じ)。最大100MbpsのLTEで伝送できない映像も音声もありえないので、用途ごとに「自転車道」に割り当てる現在の電波行政が時代錯誤なのです。