「光の道」をめぐる論争はツイッターでまだまだ続いていますが、地方のユーザーからは「ユニバーサルサービスはどうなるのか」という問いが多いようです。これについては、経済学の標準的な考え方は、「地域ごとのコストの差を無視して全国一律の料金やサービスを行なうべきではない」ということです。
東京都内ならFTTHの集線率が高いので、月1400円でも利益が出るでしょう。しかし例えば、さだまさし氏の詩島にも数kmの海底ケーブルで電話が引かれています。この島にも、月1400円でFTTHを引くのでしょうか?
このような全国一律料金は、都市の住民に一種の「税金」を課して地方の通信サービスの赤字を補填するものです。いま光ファイバーのない1割の不採算地域に敷設するためには、ユニバーサルサービス基金のような形で利用者に「課税」するのではなく、不採算地域の料金はコストに見合う高い料金にして、その差額を自治体が所得補償すればいいのです。このような所得補償はアメリカの一部の州で行なわれており、その場合に最低料金でサービスを行なう業者を選定するオークションも提案されています。
現在の電話回線は、電電公社の時代に採算を無視して敷設されたもので、それをすべて民間企業がFTTHに替えるのは無理です。NTTでさえ3000万世帯という目標を2000万世帯に下げ、その達成もおぼつかない。それを国策会社で強制的に光に取り替えるというソフトバンクの案は非現実的で、1社独占への逆行です。それよりも過疎地には(必要なら自治体が補助して)無線など低コストのインフラでサービスすればいい。
過疎地に光ファイバーだけ引いても、地域振興の役には立ちません。今でも9割の地域でFTTHは可能なのに、3割しか使っていないということは、残りの6割は引いても使わないということです。それより人口は地方中核都市に集中し、FTTHなどのインフラ整備も都市に集積して効率化すべきです。これからアジアとの都市間競争が始まり、日本の地方都市のライバルになるのは大連やシンガポールです。
大事なのは、地方中核都市の生活環境やインフラのコストをアジアの都市なみにして工場などの流出を防ぐことです。すでに人口の地方中核都市への集中は進んでおり、たとえば北海道では札幌の人口は増えていますが、他の都市の人口は減っています。農業が主要な産業だった時代には、全国あまねく住む必要もあったでしょうが、これからの情報社会では都市に情報を集中したほうがいい。田園地帯は、むしろリゾートとして環境を保全すべきです。
コメント
同感です。
松本氏の議論のうち「無線ではFTTHを代替することは出来ない」という点に関しては十分に議論すべき価値があると思いますが、この議論は「そもそも採算が取れない過疎地にまで100Mbpsレベルのブロードバンドを広げる必要があるのか?」という根本的な問いへの回答にはなっていないと感じます。全国に費用対効果の低い道路を張り巡らせ、郵便局のユニバーサルサービスを行い、使いもしない空港を建設しまくった愚を繰り返すのかと心配になります。
何事もどんぶり勘定が身上です。
そもそも過疎地はインターネット利用者自体も少ないのですから、ADSLでも十分に帯域確保できます。香港では後発キャリアがHSDPAモデム兼IP電話機で先行キャリアの固定電話の置き換えをしているところがあります。日本の島や山間部は、こういうのでカバーすれば良いでしょう。
もうひとつ。ドコモの3Gの電波は、かなりの過疎地へも飛んでいます。そもそも過疎地ではHSDPAデータ回線のユーザーも少ない。ドコモは過疎地の住民へ特別なスキーム(ADSLと同等の価格の定額)無線インターネット・サービスを提供してはどうでしょうか。HSDPA無線モデムにWiFi機能がついたものが、いまではかなり安くなっています。
月額1400円とだけ聞くと、あまり高くないなとつい感じてしまいますが、でも、これって全世帯での負担なんですよね?しかもそれで償却に30年かかるとは。さすがにそれはないですね。今後30年内に代替的な新たなテクノロジーが出てきた時に困ることになるというのは、誰が考えてもわかる理屈です。
私は現在つくば市に住んでいますが、ガスは都市ガスではなくプロパンガスを利用しています。家賃は都心に住んでいたころの半分程度ですが、ガス代は2倍弱程度になりました。「ガスのユニバーサルサービスを実現するために全国民に均等に負担させ、全国にガス管を敷設し、全ての家で都市ガスを利用出来るようにすべき」かと言うと、そんなことはないでしょう。通信インフラだって同じことです。社会的なコストを考え、ガスと同様に無線と有線の住み分けを行えばいいのです。
さだまさしさんは、島の購入当初は船舶電話、電気の施設は自腹、海を汚さないように浄化槽を設置、などご自身で言っておられます。
電気などは「人が住んでいるなら電力会社が施設する」ということになっているらしいですが、自腹で引いたそうです。
理由は「芸能人だから…って言う人がいるんだよね」ということらしいです。まさにここの記事のように。ご丁寧に地図まで。
詳細はそれこそググッみたら出てくるんじゃないでしょうかねぇ。
施設→敷設でした。
海底ケーブルについては存じませんが、少なくとも1個人のために費用がかかっていると受け取られかねない書き方は誤りでしょう。
電気を引いたときは工事費は5000万かかったらしいです。当時で。
技術への造詣が深く、未来の考察もされる方が、本件に関しては考察をされないことに、非常に驚きました。
1. 技術的な手段による解決について
現在では、音声電話だけのために島嶼部に回戦を引く場合、衛星通信や無線通信(見通しで陸地が確保できる場合)で接続するのが普通です。
あるいは誤解があるようですが、ケーブルによるランニングコスト、これは上記代替手段と比べて、長年では高額ではありません。(特殊な機器を設置・メンテナンスするコストも高くつきます。)
2. ユニバーサルサービスの大切さについて
インドでの、無線方式による大規模な家庭電話事業が有名ですが、現在はITインフラが送れた地方は、進んだ地方に対して回復不能な差ができるため、いかに地方を安価・早期にカバーしていくかが世界的なテーマです。
あと、再度申しますが、オークションは何も解決しません。オークションで解決するのは、入札時までの競争です。入札後は長期にわたり競争をしません。にもかかわらず、長期での改修を前提とするインフラ投資では、入札対象のサービス提供期間を短くすることができません。
本当の本当の、実際にメタル線まで全く引かれていない超ド田舎の一軒家に、其処につなぐ為にもう一本の光ファイバーを新たに敷設するんですか?っていうイメージで見ると、「そんな無駄なことやってる場合か!」と言いたくなりますが、現在でもメタル線が引かれていて、そこではしっかりと黒電話が活用されている程度の田舎の場合、それでもそのメタル線を維持するのに現在でも相当の持ち出しをしているはずです。そのメタル線はそれを維持するだけでも相当の費用がかかっているので、その維持コストを光敷設コストに置き換えれば、その後のコスト削減に繋がるというのがソフトバンクの理屈ですね。細かい計算は分かりません。理屈どおりに行けば光100%のほうがNTTは儲かるわけです。依頼を受けてチマチマと引くのではなく国策で一気に引けば安く出来るという理屈は、実際にはどう検証したらいいのでしょうか?否定的な人は出来ない理由を分かりやすく説明して欲しいですが、説明できるのでしょうか?出来る理由も中々説明しづらいでしょうし。