念の為、SIMロック解除論について再論する - 松本徹三

2010年05月09日 12:37

この話題をアゴラで取り上げるのはもういいかなと思っていましたが、今日の日経(7面)にもまた関連記事が出ましたし、5月1日付の週刊ダイアモンドには、「通信業界の改革を押し戻すSIMロック旧守派の弱点」という記事が掲載されていて、私を「旧守派の急先鋒」と呼んでいるので、遅ればせながら、これにも一応反論はしておかなければと考えました。


既に何度も申し上げているように、通信事業者が、端末、コンテンツ、ネットワークの「三位一体」の「要」となり、ワンストップショッピング、ワンストップサポートのメリットを実現している「日本の携帯のエコシステム」は、歪んでいるどころか、極めて合理的、且つ先進的なものであり、欧米の通信業者にも「一つの模範」と考えられているものです。

欧米でも、携帯端末の高機能、高価格化が進むとともに、日本型の「通信事業者による特別値引き」が不可欠のものと見做されるに至っており、これを可能にする「SIMロック端末」の比重は、確実に増えつつあるのです。従って、この「先進的なシステム」を破壊から守ろうとしている私が、「旧守派」と呼ばれる謂われはなく、こういうことを言われる方には、是非海外の実態をもう少し勉強されてからご発言されることを望む次第です。

ダイアモンドの記事は池富さんという方が書かれたものですが、残念ながら、私はこの方にお目にかかったことはありません。記事の中では、私の公聴会での発言やブログ、ツイッターなどが引用されていますが、そこに書かれていることの理非についての言及は無く、また取材を受けたこともありませんでした。従って、池富さんが、本当に私のブログ記事などを丁寧に読まれたのかどうかさえも定かではありません。

この方の論点は、要約すれば、「SIMロックが解除されると、ソフトバンクは大打撃を受けるので、『消費者のデメリット』等ということを言いながら、必死で自社の利益を守ろうとしている」ということにあります。しかし、下記の通り、この「推測」には全く根拠がありません。

第一に、池富さんは、「ネットワークの質はドコモの方が圧倒的に有利なので、ロックが解除されると、ソフトバンクの客はどんどんドコモに流出する」と言われていますが、下記をお読み頂ければ分かるように、「こんなことはありえない」ことは中学生でも分かることです。

成る程、ソフトバンクは後発である上に、黄金周波数と言われる800MHz帯を持っていないので、現状では、ネットワークの充実度では、ドコモに比べかなり見劣りすることは事実です。しかし、だからこそ、ソフトバンクは、「業界最安値」を宣言し、このハンディキャップを「値段」や「その他の付加サービスの魅力」でカバーしようとしているのです。そして、その努力が功を奏し、毎月の顧客数の純増やMNP(番号そのままでの事業者間の乗換え)では、ソフトバンクは、概ね、常に首位に立ってきたのです。

池富さんの言われるように、もし「ネットワーク」と「値段」の総合評価で、ソフトバンクに比べてドコモにそんなに魅力があるのなら、何故、この人達は、始めからドコモの端末を買わなかったのでしょうか? 

わざわざソフトバンクの端末を選んでおいて、途中で裏蓋を開けてSIMカードなるものを取り替える(その前にドコモショップに行ってドコモのSIMカードを買うという手間も必要です)等というような物好きな人が、この世にいるとはとても思えません。ですから、私は、そんなことは勿論露ほども心配していません。

「SIMロックを外すと、顧客の選択肢が増える」という方がおられますが、現在各通信事業者は数十種類の端末を常時販売しており、その多様性は既に十分すぎるほどに充実しています。

各通信事業者は、何とかして他社からは出せないような端末やサービスを出そうと日夜腐心していますが、その一方で、端末機メーカーは、折角開発した機種は各通信事業者全部に採用してもらおうと、これまた必死です。シャープの人気機種「AQUOS携帯」等は、ソフトバンク、ドコモ、auの三社から、ほぼ同じ使い勝手の物が並列して売られています。

コンテンツやサービスも同様で、通信事業者が他社で真似のできないものを出そうと腐心する一方で、独立のサービス業者は、自らのサービスを各社に採用してもらうように常に頑張っており、現実にそのようになっています。(例えば、ナビタイム社のナビ機能などは、どこの端末でも利用可能です。)

iモードやiコンシェルは、ドコモが開発したものですから、ソフトバンクの端末には載りません。ソフトバンクも、ドコモに対して、「ウチの端末にも載るようにして下さいよ」などと頼む積りはないでしょう。しかし、日本の会社であれ、外国の会社であれ、今、どこかの会社が極めて魅力的なコンテンツを開発したとしたら、各事業者はその会社に日参して、「是非ウチの端末にも載るようにしてください」と頼み込むでしょう。

さて、それだけの格段の魅力をもった「端末」と「サービス」を開発した会社の代表格が、今をときめくアップル社です。(残念ながら、日本にはこれに匹敵するような力を持った会社は、昔も今もありませんでした。)ですから、ソフトバンクは、あらゆる種類の拡販体制を整備し、アップル社を口説いて、iPhoneの販売権を獲得しました。

アップル社の商品には他社がちょっとやそっとでは追いつけないような魅力が満載されていますから、どうしてもiPhoneを欲しいと言う人達は後を絶ちません。しかし、現状では、日本ではソフトバンクだけが販売権を持っているので、例えば「自分の家にはソフトバンクの電波が入りにくい」というような人達の間では、現状に対する不満が広がっていることも理解出来ることです。

今回、多くの方々との多くの議論を通じて私に分かったことは、今回のSIMロック議論のベースは、「海外での高いローミングコストを回避したい」という人と、「ドコモのネットワークでiPhoneを使いたい」という人の不満が出発点になっているということです。こういう人達は、数としては比較的少なく、日本の全顧客の2-3%程度と思われますが、これらの人の声が今回の議論の原動力となったことは、先ず間違いないと思います。

先のアゴラの記事でも申し上げましたように、この第一の問題(海外ローミングの問題)は、我々だけでなく、世界中の全ての通信事業者が取り組まなければならない課題です。我々も、既に、情況を何とか改善すべく行動をとっています。

そして、第二の問題は、要するにアップル社のマーケティング戦略の問題です。例えば、日本の経産省が「ポルシェの日本での販売政策」について口を出せないように、そもそも国が関与出来る性格の問題ではないでしょう。

ソフトバンクとしては、自分達の「販売能力」をアップル社に認めてもらえるように努力するだけですし、「販売能力」の最大のポイントは「価格政策」であることも知っています。それは自分の身を切ることであり、辛いことではありますが、顧客層を最大限に広げる為には最も重要なことであり、顧客にも支持されることであると信じています。

(Webで検索されて、ドイツなどでは、SIMロックなしのiPhoneに十数万円の店頭価格がついていることを知って頂けると、ソフトバンクの努力が如何に大きいものであるかの一端をご理解頂けると思います。)

なお、今回の議論とは直接関係ありませんが、序なので、ドコモとソフトバンクのネットワークの差についても、一言付け加えさせていただきます。

ネットワークの問題はカバレッジとキャパシティーに分かれます。まず、カバレッジの問題は、戦術的な問題であり、汗をかいて丁寧に時間をかけて取り組んでいくしかありません。

ソフトバンクとしては、これまでその努力が十分でなかったことについて猛省しており、社長自身がツイッターで重ねて強調しているように、現在全社を上げて取り組んでいるところです。幸いにして、近年、フェムトセルといった「カバレッジの穴を埋める技術」に進歩が見られるので、短期間にかなりのキャッチアップは出来るでしょう。

これに対して、キャパシティーの問題は戦略的な問題です。仮に現状でドコモのネットワークの方がソフトバンクに比べて相当に手厚いとしても、現在の数十倍から数百倍にもなるだろう将来のデータトラフィックの増大を考えると、この程度の差は「五十歩百歩」のレベルでしょう。

今後の携帯端末のデータトラフィックには、何れにせよ、「モバイル」と「有線+WiFi」の二つが、車の両輪として対応していかなければならないのですから、「設備競争の局面」は既に変わろうとしているのです。

さて、池富さんのもう一つの論点、「SIMロックが解除されると海外の安い端末が入ってくるので、日本製の高機能端末は売りにくくなる。そうするとソフトバンクの現在の販売スキームは破綻する」ということについては、何と言ったらよいか、論評の仕様もないほどに根拠が見当たらないので、唯々頭を抱えるばかりです。

そもそも、日本にも「機能は要らないから徹底して安くして欲しい」という客層は結構います。お年寄りや子供向けだけでなく、ビジネス用にもそういう需要は結構あるのです。そういう端末については、勿論コストは安ければ安いほどよいわけで、事業者も必死になって安い端末の供給先を探すのは当然です。

端末のコストと販売スキームは直接の関係はありませんし、全ての客層を満足させられれば、それだけ市場シェアは増えるのですから、どの事業者も、このような市場のニーズを頭から忌避する理由は全くないと思っています。

ソフトバンクは、現在サムスン製の安価な端末をプレペイド(料金先払い)端末として販売していますが、中国メーカーとも鋭意接触しており、今後とも単純で安価な端末の選択肢を広げたいと考えています。アジア各国での例にも倣い、中古品のマーケットを創造する事も視野に入れたいと思っています。

これで池富さんの記事への反論は終りです。池富さんにもし再反論があれば、アゴラのコメント欄へのインプットをお願いします。

池富さんに対しては、きついことを申し上げて申し訳ありませんが、あのような記事がダイアモンドのようなレベルの高い雑誌に掲載されると、株価にも影響なしとしませんので、今後は記事を掲載される前にもう少し慎重な取材をお願いしたいと考える次第です。

最後に、冒頭に参照した今日の日経の記事について一言。

日経の論旨は「光ファイバーなどの固定回線の整備のみに目が行って、携帯通信の競争が忘れられてはならない」というもので、その点にはまったく異論はありません。ただ、「SIMロックを解除すれば、携帯の通信端末も通信料も安くなる」というのには全く根拠がないことは、重ねて強調させていただきたいと思います。

そもそも、「一つの端末でいつでも色々な事業者間を渡り歩けるようにしようとすれば、どうしても端末機のコストは高くなる」という「当然のこと」は、既に現実に端末機を作っているメーカーが明言していますし、「SIMロックによる『長期利用の保証』がなければ、これを引き当てての『特別値引き』は出来なくなる」という「これまた、当然のこと」は、当事者である通信事業者が明言しています。

これに対し、「安くなる」ということを言っている人が、その根拠を説明したことは一度もありません。

(総務省のヒアリングに急遽呼ばれた日本通信の福田さんとUStream でご一緒したので、「福田さん、その安い端末とやらをすぐに作って販売してください。必ずロックフリーのSIMを供給しますから」と申し上げたのですが、福田さんはこれに対しては無言でした。どう考えても、安く出来る可能性は無いのですから、これは当然でしょう。しかし、UStreamとは異なり、総務省のヒアリングでの発言は重いものですから、日本通信さんは、もしその際に「事実でないこと」を発言されたのであれば、今からでも撤回しておかれるべきです。)

それでは、「通信料」はどうでしょうか? これも現状で競争は十分に熾烈です。そして、その競争は、端末機の販売現場でなされているのです。

このブログ記事の前半でも申し上げたように、日本にいる限りは、一旦買った端末の裏蓋を開けて、途中でSIMカードを差し替えて事業者を変更するような酔狂な人は殆どいる筈もなく、ユーザーによる事業者の選定は、端末を買う時になされるのです。ですから、SIMロックがなくなったからと言って、各事業者が現在既に行っている「熾烈な競争」以上に、通信料の値下げ競争をあらためて始めるという理由は皆無です。

だからこそ、各事業者は、「『端末』『サービス』『ネットワーク』の『三位一体』がもたらすユーザー価値」と「それに見合うトータルの価格パッケージ」を、必死になって競い合っているのです。

「日本の携帯通信料は高い」とおっしゃいますが、機能やサービスまでを入れたトータルの値頃感ではどうでしょうか? 

もし欧米のビジネスモデルや価格体系の方が日本の消費者にとっても本当によいのであれば、現在のソフトバンクの前身であるボーダフォン(英)は、日本市場で大成功を収めたはずです。しかし、現実には、彼等が目論んだ「世界市場を背景とした大量購買による端末価格の低廉化による競争」は不発に終り、ボーダフォンは悪戦苦闘の末、日本市場から撤退せざるを得なくなりました。

イーモバイルやWilcomを入れると、これまで5社が競争、現在、大手だけでも「ソフトバンクのような変り種」を含めて3社が熾烈な競争を展開している日本の携帯市場は、未だ不十分だとはいえ、まあまあ「健全な競争原理」が働いている状態だと思います。少なくとも、NTTの寡占化が日に日に進む光のアクセス網に比べれば、競争環境は格段に整っていると言ってもよいでしょう。

なお、日経の記事が今回初めて指摘された「通信接続料」のことについても、この際十分議論をしたいところなのですが、今回は紙数が尽きましたので、次回に譲らせて頂きます。

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