そんな小さな市のために - 山田肇

2010年05月10日 09:50

「そんな小さな市のために、誰が真剣にサービスを提供するんですか。」4月30日のUstream緊急中継で、岡山県新見市でのインターネット加入率が30%にとどまっている理由を僕が尋ねたときの、松本徹三氏の発言である。司会がでしゃばるのもはばかられたので質問を重ねなかったが、それ以来、「サービス」という言葉が頭から離れない。

新見市では、公費を投じて建設された光ファイバーが全戸に接続され、その運用をソフトバンク・テレコムが請け負っている。光ファイバーをインターネットに接続するサービスの価格はソフトバンクが決め、ソフトバンクがサービスするIP電話同士の通話は無料という「おまけ」まで付けたのに、加入率が全国平均並みに低いのはどうしてだろうか。それが緊急中継で僕が質問したことだ。


公設民営という価格的には有利な状況でも加入率が伸びないのは、インターネットに接続した後に利用できる「ネット上で提供されるサービスに魅力がないからではないか」というのが、続けて質問したかったことだ。

情報通信政策フォーラム(ICPF)では、09年秋から『改革を阻む制度の壁』と題するセミナーシリーズで、コンテンツ流通・医療・政治・教育など様々な分野でネット利用が進まない理由を議論してきた。サイバー大学の場合には、年間35週までしか講義を提供できないとする大学設置基準(長い休みを取れない社会人学生はいつでも勉強できるのに)、出席管理に厳密性を求める行政指導(普通の大学では代返が横行しているのに)、オンライン教育での著作物利用を禁止する業界ガイドライン(著作権法第35条があるのに)などが壁になっているなど、現状の問題点が一つ一つあらわになった。

セミナーシリーズを終え、これらの壁がネット上で提供されるサービスが普及しない理由だと確信した。原口総務大臣の「光の道」構想では「ICT利活用促進による豊かな社会の実現:ICT利活用促進一括法案(各種規制の見直し等)」がうたわれている。これこそ本丸だと思う。光ファイバーの建設は民間でもできるが、法律・規制の改革は政治が主導しない限り実現しないからだ。

昨年10月、グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォースの第1回会合で、原口氏は「人間を中心に据え、すべての人間に等しく降り注がれる太陽のようにコミュニケーションの権利を保障することが必要」と基本的考え方を説明された。情報アクセシビリティを推進する活動に関わっている僕はこの考え方に強く共鳴した。そんな僕には「光の道」は「降り注ぐ太陽の光」と聞こえる。

そもそもAmazonやiTunesは、どうインターネットに接続したかに無関係に、だれでも利用できる。サイバー大学の学生が利用している通信事業者もまちまちだ。そんなネット上の多様なサービスを利用できることこそが国民の持つコミュニケーションの権利だ。

「全世帯に光ファイバーを」というソフトバンクの主張は、原口氏の真意を誤解しているのではないか。公設民営という有利な条件でソフトバンクが運営しても加入率を増やせないという現状を改善するには、制度((法律・規制・慣行・思い込みなど)を改革し、ネット上で提供されるサービスの魅力を増す必要がある。

サイバー大学の学生の中には寝たきりを強いられている障害者もいると聞いた。そんな人も含めて、すべての人間に等しくICTの光が降り注がれる社会を実現するために、サイバー大学を主導された孫正義氏こそ、NTTからの光ファイバーの分離ではなく、ネットの利活用を阻害する制度改革について原口氏をサポートすべきではないだろうか。

山田肇 - 東洋大学経済学部

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