階級闘争から効率化へ - 『政権交代の経済学』

2010年05月22日 12:24

★★★★☆(評者)池田信夫

政権交代の経済学政権交代の経済学
著者:小峰 隆夫
販売元:日経BP社
発売日:2010-05-20
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民主党政権が迷走している一つの原因は、官僚を敵視した政策が裏目に出て、霞ヶ関がサボタージュしたことだろう。官僚は大臣が脅せばついてくると思っているのかもしれないが、彼らも民主党の足元を見ているでの、政務三役に情報を上げない。政治家が勉強して官僚に対抗できる知識をもたないと、逆に官僚の情報操作に負けてしまう。

本書は教科書的な経済理論で政策を考えるものだが、民主党の政策はことごとく経済学の常識の反対だ。編者も指摘するように、鳩山首相が所信表明演説で「市場にすべてをまかせ、強いものだけが生き残ればよいという発想」を否定して「人間のための経済」を提唱したことが間違いの始まりだった。彼は「経済合理性や経済成長率に偏った評価軸で経済をとらえるのをやめ、国民の暮らしの豊かさに力点を置く」というが、経済成長率と「暮らしの豊かさ」はトレードオフの関係にあるわけではない

経済学は効率性を実現する手段を考える学問だが、それは公平性と対立する概念ではなく、多くの効率的な状態の中から公平な状態を選ぶことが政治の役割である。民主党の混乱した政策は、両者を混同することから生まれている。本書が批判するように、子ども手当は出生率を引き上げる政策と分配の公平を混同したため、どっちの役にも立たない。最低賃金の引き上げや派遣労働の規制強化は、効率を犠牲にして公平を求めようとして、どっちも低下させた。

高学歴の鳩山内閣が、このように愚かな政策しか出せないのは、彼らの若いころの知識をベースにして耳学問で状況に対応しているからだろう。団塊世代が学生時代を過ごした1970年ごろは、まだマルクス的な階級闘争の図式が「保守/革新」とか「大企業/労働者」といった形で残っていた。しかし90年代以降、そういう冷戦時代の図式は有効性を失ったのだ。

今まず考えなければならないのは、「経済合理性」にもとづいて日本経済の効率を高めることである。そのために必要な知識は、最適化理論でスタンフォード大学の博士号をもつ鳩山氏にとっては大してむずかしいものではない。必要なのは、古い先入観を捨てて謙虚に勉強し直すことだ。本書ぐらいの最小限度の常識は身につけてほしい。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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