「第三の道」って増税をすることなのか?  ―前田拓生

2010年06月06日 16:08

菅さんが新首相になり、もうすぐ新政権が誕生することになります。鳩山政権と同じ民主党とはいえ、現下の組閣状況等の報道をみる限り、何となく期待が持てそうな感じがします。また、管首相の場合、日本の財政的危機については十分に理解しているようですから、今までの政権よりも安心感があります。しかし、菅さんのいう「増税をしても使い方を間違えなければ景気は良くなる」という考え方には、どうしても違和感を覚えます。

確かに日本の財政は危機的な状態であり、その手当てを考えることが必要です。それはアゴラへの投稿で何度となく発言してきました。


ただ、現状の景気状況で所得税等を引き上げたり、累進性を高めるのは如何なものなのでしょうか。「景気」を考えるのであれば「頑張ろう」としている人にはしっかりと報いる税制でないといけないわけですから「より高所得者層に負担を強いるとともに、その資金を持って、雇用対策等として使う」というようなやり方では、頑張ろうとする人々が、海外に逃げ出してしまうことになるのではと心配になります。

そもそも現在の財政問題で最も問題なのは「社会保障費が今後も増大をし続ける」ということであり、これを賄うために政府債務残高が増え続けるという点にあります。なので、国家の財政自体を事業仕分け等によって縮小させた上で、消費税を増税することができれば、プライマリーバランスを黒字化させる目処が見えてくると思われます。ここで消費税増税についても社会保障費にしか充当しないということを与野党で協議し、どのような政権であっても「この点は破らない」と宣言すれば、ある程度、国民の理解は得られるのではないでしょうか(当然「年金制度」等をしっかりと作ることが前提ですが)。

現状、日本の少子高齢化がすぐに解消することはなく、社会保障費は膨らむ一方なのですから、このままだと将来時点において増税とともに社会保障費のカットになることは容易に想像できます。このような状態なので、一層、将来不安が増大し、将来不安から消費減退を招いていると考えられます。このような不安を断ち切るために、多少、消費税が増税になっても、それは「やむなし」と考える国民は多いものと思われます。

つまり、消費税増税は「将来不安の解消」という意味でのみ是認されるでしょうが、その他の「増税」は、どう考えても、景気を冷やす方向にしか作用しないので、できるだけ避けるべきだと思います。しかも、現下の経済状態から考えれば、増税によって雇用等の対策というのは、極めて危険な政策といわざるを得ません。

確かに、労働力の提供能力がある個人を失業状態にしておくよりも、国家が何らかの方法で雇い入れ、その能力を発揮してもらうということは社会的な厚生を高めることになり、また、雇われた人は所得を得るわけですから、消費行動を通じて、景気にも貢献することになるでしょう。しかし、税を取られる方からすれば、何故、“見も知らぬ失業者”に対して「自分が増税にならないといけないのか」という疑問が湧いてきます。

これは「高額所得者は消費性向が低いのだから、貯蓄に回す分を社会貢献すべき」といわれても、それはなかなか受け入れられない話です。況して、雇用対策だけでなく、今後の成長戦略として環境、健康、観光、第一次産業のような分野を位置付けているようですから、そのような産業が必要であるとは考えていない人々にとっては、増税に対する反感しか生まれないことになります。

特にここで「環境、健康、観光、第一次産業」は、内需が大切ということは理解できますが、従来型の補助金政策を続けるだけということであれば持続可能性という意味で疑問が残ります。それでもこのような産業を成長戦略として位置付けるのであれば、それは国家が関与するというよりも「どう民間が関与するか」がポイントなのですから、まずは仕組みを考えるべきなのではないでしょうか。

それなのに「だから増税」という発想では、何も変わらず、おカネを移転させただけという話にしかなりません。

ここで考えるべきは、今こそ、「地域主権」「新しい公共」に加えて、市民の活用だと思っています。菅さんはそもそも市民活動をベースにして政治を志した人物なのですから「市民の活用」という部分をもっと全面に打ち出して、いわゆる「第三の道」としての政策を打ち出してほしいと希望しています。

現在、日本のようにある一定以上の所得水準をキープしているような先進国においては、金銭的な「幸福」「豊かさ」だけでは満足できない状態にあるので、GDPの成長力を目指すだけでは国民の支持は得られないことになります。加えて、もう国家が一律に「何かを行う」という時代は過ぎ去っているのですから、より生活者に近い行政システムとしての地域コミュニティに行政権限をシフトさせることを考えるべきでしょう。つまり、これが「地域主権」という考え方だと思います。

そして、その際に地方公共団体という「公」が行政を行うだけではなく、NPO等にアウトソーシングすることが大切になってきます。「幸福」「豊かさ」という尺度が多様化する中では「公」が必ずしも、その地域全体の民意でないことが多くなってきます。したがって、よりコミュニティに密着したNPO等が当該住民の意思に則した活動を行うことで、それぞれのコミュニティの発展を図ることが大切になってきます。

その際、このような活動を行うNPO等は、単に無償ボランティアということで運営するのではなく、有償ボランティアによる事業型NPOである必要があると考えています。が、この場合「非営利」という概念や事業に関するディスクローズの方法等を再確認することが大切になってくるので、この辺りはいろいろな議論もあるものの、ここでは深入りは避けます。

とはいえ、ここで非営利の事業型NPOが地方公共団体に代わって行政活動を行うとした場合、そのような団体への寄付は「所得税から控除するべきだ」と考えています。そもそも行政が行うべき仕事をこのような団体が行うのであれば、それへの寄付は、すなわち「税金と同じ」なのですから「控除されて当然」といえます。

このような税制体制にすれば、先ほどの「失業者問題」においても、街のNPO等が当該街の雇用対策をすることになるので、そこへ寄付し、しかも、その寄付が減税になるのであれば、市民が積極的にカネを出す可能性があります。同様に、もし、地域コミュニティの活性化のために「環境、健康、観光、第一次産業などの産業活性化が必要」ということであれば、その対策を行う事業型NPO等に寄付をし、寄付減税を活かす個人も多くなると思われます。

ここで寄付しなければ、そのおカネは国に流れるだけなので、そのおカネは「国が思うように使われてしまう」ということになります。とすれば、できれば身近なNPOへの寄付という行為が増加するようになるでしょう。

当然、国家は安全保障や治安維持等の役割があり、また、地域ごとの資金的な凸凹を(地方交付税交付金等で)調整する必要があるでしょうから、その点を担う役割は否定するものではありません。ただ、今後の社会においては、より地域コミュニティが重要になってくるでしょうし、また、そのような仕組みを早急に構築しなければ、国家そのものが存立し得ない状態になると思われます。

以上から、「まず増税ありき」というような考えではなく、菅さんの原点である「市民を如何に活用するか」という点をもっと発展させて、本当の意味での「新しい公共」を実現させてほしいと願っております。

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