「あるんです」で子ども手当、でも「なかった」から増税って?!  ―前田拓生

2010年07月03日 22:44

昨年、民主党は「あるのです、いくらでも」といって、実際にはありもしない財源を根拠にして子ども手当の支給を早々に決め、(支給自体は半額とはいえ)本年度から実施しました。私はその際「本当に財源があるのか」「何のための政策なのか」という疑問から「子育て支援に所得制限は当然!」というコラムをアゴラに投稿しました。結局、その後、事業仕分けなどをしたものの、子ども手当に相当するような財源は見つからず、菅政権になってからは「来年度からは満額」という当初の目標も早々と降ろすに至っています。その上、菅首相は「消費税増税」を打ち出しています。


確かに私もアゴラのコラムやブログTwitterを通じて、日本における政府債務残高が極めて大きい点について論じ、より早く対処すべきである旨の発言をしてきました。

ですから、管首相の消費税増税発言には一定の評価はしています。しかし、現状、管首相から伝わってくる増税については「いくら必要で」「それを何に使いたいのか」という点が必ずしも明確でない上に、増税分を「付加価値生産に関係のない業界(介護など)の雇用拡大に使い、それによって経済成長」という幻想のような話をしています。これではいくらなんでも「増税は仕方ないよね」とはいえません。

民主党を支持する人々の一部では「増税で雇用促進」は政策の工程表に載っていることであり、基本的に路線は全く変わっていないという話もあるようです。つまり、工程表通りだから、この増税および雇用促進を進めれば「必ず経済成長につながるのだ」というのです。

本当でしょうか?

もし、介護等の従事者の雇用促進をすると経済成長になるなら、増税せずに子ども手当自体をやめて、その資金を使った方が良いでしょう。「子ども手当はそのまま」で「財源がないから増税」という話では、国民は理解できません。実際、子ども手当の時にも「埋蔵金があるから」ということで無理やり実施したのに、結局は財源がなかったわけですから「大丈夫だから信じてくれ」と言われても、もう無理でしょう!

しかも、ここに至って菅総理はしきりに「財政危機」と連呼しています。

確かに財政危機の可能性はありますが、今は家計の金融資産で何とか賄えているのですから、一国の首相が危機を煽るような発言をするのは問題です。時間はそれ程残されていないものの、最も問題である「今後もドンドンと増え続ける社会保障費」に対処するために税および年金等の改革を行えば、今ならナショナルミニマムというレベルくらいは何とかなり、財政的にも目途を付けることが可能だと思います。

そのような道筋の中で「消費税増税」という話をし、そして、その話の中で社会保障関係における各党の思惑等を調整するというなら、各党ともに話に乗ってくると思います。

ところが、増税で「何をするのか」「どのくらいの資金が必要なのか」さえなく、「今の財政危機を招いたのは、今まで政権を担当していた自民党や公明党だ」という話から、だから「増税議論を超党派で」と野党に相談をかけても、聞き耳を立ててくれるはずはありません。「とりあえず、増税」という話で喜ぶのは財務省だけでしょう。

「財政を健全化させる」のは大切ですし、このまま放置することはできません。でも、経済自体がシュリンクしている今、やみくもに増税論議をすれば、さらに景気は悪くなっていきます。増税を喜ぶ国民はいないのですから、その点を良く考えてほしいものです。しかも、増税をして資金をつくり、その資金で「失業者を介護従事者として雇い入れることで経済の活性化を図ろう」という、幻想のような経済理論を鵜呑みにして、現実の一国の経済政策として採用しようなどという話では、誰も付いてきません。

現時点で増税をするのであれば、「今時点の増税」が「将来時点の所得(年金)」として戻ってくるということが信じられるような社会保障システムを作り、そのための「増税なのだ」ということ、また、「今後は今以上の負担がないよ」というメッセージを国民に対して示すことだと思います。自分のおカネが、時を経て、自分に返ってくるということが理解できれば、しかも、それが信じられれば、増税であっても「仕方ない」と思うわけであり、また、将来も安心できるという話であれば消費も徐々にでも増える可能性があります(非ケインズ効果)。

社会保障に関する抜本的な改革を、本当は、長妻大臣に期待していたのですが、「子ども手当大臣」のようになってしまい残念!でも、現状のような状態だけに、もっとリーダーシップを発揮していただき、年金も含めた大掛かりな改革を打ち出してほしいものですし、期待もしています。その改革に「増税」が必要ということであれば、超党派で議論もできるのではないでしょうか。

今、大切なことは「増税を実施すること」ではなく、その増税で「何を行うか」ということです。何回も何回も増税をするわけには行かないのですから、ビジョンをしっかりと示してほしいと思います。

ところが、今、菅首相は「ともかく増税を言ってしまったので、行くところまで行くしかない」という態度にしか見えません。もう引っ込められないし、「増税は止めた」といえば「ブレた」と言われるに決まっているので、いろいろと言い訳ばかりをしているという感じです。典型が「所得が400万円以下の世帯には戻し税」という話でしょうね。これでは増税効果が全くなくなってしまいます。でも、選挙には勝たなければならないので、後先を考えず、「言ってしまった」ということでしょう。

下手な言い訳を言い続けてみても、選挙が終われば、政権を担当しないといけないのですから、もっとビジョンを持って選挙を戦ってほしいものです。

そもそも「最小不幸社会」をビジョンにしているなら、(社会保障と経済拡大などという)二兎追うようなことを考えずに、ナショナルミニマムとしての社会保障費を「将来も安心」にするために消費税増税を行うのだと公言すれば、かなりすっきりとします。そして、それだけでは財政危機が収まらないのであれば、勝手に「第3の道」を定義するのではなく、ギデンズの「第3の道」に立ち戻り、中央政府は「小さな政府」にすると同時に「地域主権」ということで主に寄付等で運営するNPO等に行政業務を委託するなどを考えるべきしょう。しかも、地域主権における基礎自治体くらいの経済であれば、「(NPO等が)失業者を介護従事者として雇い入れることで経済の活性化」も実現する可能性が高く、有効な景気対策になると思います。

加えて、この場合、「寄付」に対してはあまり制限を付けずに所得税控除等を行うことを考えた方が良いと思います。幅広く寄付控除を認めることで、富裕層や企業などの寄付を促すことができるかもしれません。例えば、寄付を受けたNPO等が寄付者の名前等を公表すれば、税金納付額が同じでも当事者のイメージアップにつながるので、寄付文化のない日本でも広がる可能性があります。そうすれば、あまり増税せずとも、最低限の行政システムは機能していくでしょう。

実際、地域主権も年金等の改革も民主党のマニフェストにあったことですし、「市民を巻き込む」というのは市民活動家である菅首相の得意とするところではないのでしょうか。経済成長分野は国などが考えることではなく、むしろ、変に介入とすると邪魔になるだけなのです。このような分野は民間の活力に任せれば良いのです(対外的な交渉等ではサポートをすべきでしょうが)。

今やるべきことは「ビジョンを語ること」であり、増税の言い訳ではありません!

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