ゆうパックの遅配問題に思う--池尾和人(@kazikeo)

2010年07月09日 09:39

郵政改革の核心が、郵貯問題よりも、郵便事業の将来をどう構想するかにあることは以前にも指摘した。電子メール等の普及により、手紙や葉書の利用量は趨勢的に減少しており、郵便事業が対象としている市場は縮小している。こうした中で、郵便事業をどのようなかたちで存続させ、雇用をどのようにして維持(あるいは調整)していくかについての展望を示すものでない限り、郵政改革案というに値しない。

ただし、郵便物の市場に、手紙・葉書だけではなく、小包(パーセル、小荷物)も含めて考えるならば、やや見方は変わってくる(なお、郵政民営化以降、日本郵便の扱う小荷物は法制上は「小包郵便物」から「宅配便貨物」になった)。というのは、インターネットが普及し、電子商取引がいかに活発になっても、商品を物理的な意味で引き渡す必要はなくならないので、小荷物の取扱高は、減少しないどころか、むしろ増加していくと見込まれるからである。


したがって、小荷物を包含して考えるならば、郵便物市場には十分に成長する余地があるといえることになる。そうであれば、手紙・葉書から小荷物に業務の重心を移していくことで、郵便事業とその雇用を維持していくという展望を描くことも不可能ではない。

しかるに、日本郵政公社になる前の郵政省・郵政事業庁の時代には、小包の取り扱いに力を入れるどころ、その逆に冷遇してきたとさえいえる。このことは、国営時代の郵政事業には、経営「管理」はあっても、経営「戦略」は存在していなかったことを示している。その結果、日本郵政公社発足時における「ゆうパック」の宅配便市場におけるシェアは、10%をかなり下回るものでしかなかった。

ふつうの民間経営の観点からすると、シェアが10%を下回るような分野からは撤退するのが当然である。1位か2位になれるような分野に経営資源を集中し、それ以外の分野は手がけないのが、「選択と集中」の原則である。しかし、郵便事業の場合には、宅配便から撤退すると、衰退市場である手紙・葉書の類しか残っていないことになる。急速な規模の縮小を強いられることを回避するためには、宅配便からは撤退できない。

そこで、日本郵政公社は、ゆうパックのリニューアルを行い、ローソンをはじめとしたコンビニ・チェーンでのゆうパック受付の提携を実現するなど、ゆうパック事業の強化策に取り組むことになる。この頃から、日通のペリカン便との統合は、選択肢の1つとして検討されていた。しかし、たとえ統合しても、いわば「弱者連合」にしかならず、宅配便市場でのシェア拡大の決め手になるとまでは見込まれなかった。

宅配便のサービス内容は高度化しており、きめ細かい配達時間の指定や再配達などに対応するためには、1人のドライバーにかなり狭い地域を担当させる必要があり、そうしても採算が合うためには、かなりの取扱量があることが前提条件となる。その意味では、取扱量が増えるほどサービス内容を高度化させて競争力を高められるという面があり、「自然独占性」があるともいえる。

そうである以上、ヤマト運輸と佐川急便という上位2社に、ゆうパック単体のシェアで対抗することは不可能で、ゆうパック+ペリカン便の合計シェアでもまだ非力だとみられる。それでも他に選択肢はないということで、郵政民営化以後、日本郵政はペリカン便との事業統合を決定し、そのための受け皿会社として「JPエクスプレス」を設立する。そして、日通からペリカン便事業を譲り受けて、2009年4月1日からJPエクスプレスは事業を開始する。

ところが、西川・日本郵政社長と対立を深めていた当時の鳩山邦夫・総務大臣が認可を出さなかったために、引き続くゆうパック事業のJPエクスプレスへの統合は実現できないことになる。上記のようにゆうパックとペリカン便を統合しても非力であるので、総務省側が問題視したように、JPエクスプレスの事業収支の見通し等には不透明なところがあったと思われるが、だからといって総務省側に宅配便事業の将来に関する確かなビジョンがあったわけでもない。唯一の成長部門である宅配便事業が郵便事業会社から分離されると、郵便事業会社の先細りが加速化することになるという懸念があっただけである。

その後も総務省の認可が得られないことから、結局、JPエクスプレスは清算し、郵便事業会社にペリカン便を統合し、郵便事業会社においてゆうパック・ブランドの下に事業統合を行うことになった。そして、その事業統合が2010年7月1日から開始されたけれども、スタート直後から準備不足が露呈し、今回のゆうパックの遅配問題に至った。

この遅配問題という失態によって、宅配便市場でのシェア拡大はますます困難化し、郵便事業の将来展望はますます暗いものとなった。この帰結には、日本郵政の経営陣とともに、長年にわたる旧郵政省・現総務省の郵政行政における戦略不在にも大きな責任があると考えざるを得ない。

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