時代に挑戦しつづける情熱がアップルの強み - 大西 宏

2010年07月26日 15:36

海外紙では、アップルの快走に懐疑的な記事が時々見受けられます。とくにiPhone4の電波受信のトラブルに関して、消費者専門誌に「購入を推奨しない」と宣言されたことに関連した記事や、アップルの快進撃を支えているiPhone4やiPadが従来の製品よりは、粗利益率が下がったといった指摘もあります。
あまりアップル快進撃に懐疑的な記事がない日本の新聞ですが、日経に面白い記事がありました。「『挑戦者=アップル』が崩れる日 人気増すほど揺らぐブランド力 」です。


同記事は、アップルがこのまま成長すると、創業以来維持してきた、大多数の大衆とは一線を画す「非主流派」あるいは「挑戦者」といったブランドイメージが揺らぎかねないこと、また大きく強くなり過ぎることでブランド力を失ってきた企業がこれまでも多いという指摘をしています。

そうでしょうか。しかし、実際には、アップルのブランドイメージは大きく変化してきたことこそ直視しなければなりません。今のアップルには、”Think Different”を標榜し、かつてのように王者マイクロソフトとは違うニッチな領域で生きているというイメージはもはやありません。おそらく、多くの人は、アップルとマイクロソフトを比較することすらなくなっていると思います。あるとすれば、パソコンでMACにしようか、それともウィンドウズのPCにしようかと迷う時ぐらいでしょうか。

アップルの勢いは凄まじいものがあります。直近の第3四半期の決算では、売上高で前年同期比で61%増、純利益で78%アップですから、昨年の年間売上高が429億ドル、つまり4兆円規模の会社がとんでもない急成長しているというのは、想像もつかない事態が起こっているということです。

アップルはその勢いに乗って、株価でマイクロソフトを抜きました。売上げでも、マイクロソフトを抜きさろうという勢いです。しかし、重要なことは、決してマイクロソフトが不調というわけではありません。マイクロソフトもウィンドウズ7のヒットで、2010年4~6月期決算は、売上高が前年同期比22%増、純利益は同48%増と躍進しています。すばらしい経営成果ですが、それもかすんでしまうアップルの勢いです。

情報通信革命の追い風を全面に受け、波にも乗ったアップルですが、今でも挑戦者のイメージは色濃くでています。しかし同じ挑戦者と言っても、もはやPCの世界の王者であるマイクロソフトに挑戦するブランドではありません。新しい時代への挑戦者、情報通信革命への挑戦者としてのブランドに進化したと感じます。そんなブランドの進化を果たせたのは、iPod以降に、一貫して展開してきた市場創造のマーケティング、イノベーション戦略の積み重ねであり、実績に裏打ちされたものです。

しかも、マーケティングが実に巧みです。まったくゼロからの創造というよりは、MP3プレーヤーに対してiPod、スマートフォンに対してiPhone、ネットブックに対してはiPadというように、市場が伸び、将来性は高いものの、市場にリーダーがおらず、未成熟で価格競争を行っている分野で、コンセプトを革新し、サプライズをともなう製品を投入し、さらにプラットフォームを加えたビジネス・モデルを持ち込んで、新市場に仕立て上げるというマーケティングを行ってきたのです。
アップルの”Think different”は、今や、マイクロソフトのパソコンを使うユーザーに対してではなく、もっと新しい体験がそこにある、そんな体験を通して、今の生活を変えてみてはどうかという提案にすら感じてしまいます。

同じ視点をもっていることを感じさせる企業があります。グーグルです。もはやアップルが見ているライバルは、コンピュータ、パソコンのソフトの王者として地位を固めたマイクロソフトではなく、未開拓で、潜在需要の大きな分野にチャレンジする意欲の高いグーグルに移ってきたことも自然な流れといえます。

しかし、どんな企業も栄枯盛衰はあります。アップルにとっての脅威はあるのでしょうか。それはかつてマイクロソフトが受けた独占禁止法違反という社会からの圧力でしょうか。
それとも強力な競争相手の出現でしょうか。

検索の巨大企業グーグルと今や情報家電の分野で世界のトップブランドであるサムスンのコラボレーションで、すでに米国でiPhone4にチャレンジする「ギャラクシーS」が発売されました。日本でも10月にNTTドコモから発売されます。この組み合わせはかなり強力です。iPadに近い、タブレット型のPCもでてくるそうです。

しかし、この競争で厳しくなるのは、アップルよりも、既存の携帯メーカーや、ノキアなどの既存のスマートフォンのメーカーであり、ネットブック陣営のほうだと思います。競争はむしろ、市場を活性化させ、またアップルは独占禁止法の監視の目からも逃れることができます。

日経の記事は「人気が拡大するほどブランド力を失う危機が高まるというパラドックスをどう乗り越えるのか」という疑問の投げかけで締めくくっていますが、いったん築いたブランドへの信頼は、よほどのことがない限り、崩れないというのも事実です。
むしろアップルが負っている宿命であり、懸念材料があるとすれば、ジョブスが繰り出すサプライズをつぎつぎと生み出し続けるのかどうかです。それが生み出せなくなったときに、ブランドの勢いはなくなります。

しかし、それもしばらくは問題ないでしょう。すでにジョブスは、年内に「画期的な製品」をリリースすると宣言しています。既存製品も、よほど開発競争に負けない限り、先発ブランドが強いというのもブランドの歴史は証明しています。
アップルを心配するよりは、アップルやグーグル、インテル、マイクロソフトが二桁増の好調が伝えられているさなかに、日本は、なぜ競争力を失い、いまだに閉塞感に覆われたままなのかのほうを真面目に考えるべきではないかと感じます。

株式会社コア・コンセプト代表
大西宏

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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