政府研究開発投資における権威主義の弊害 - 山田肇

2010年09月01日 23:28

情報通信政策フォーラム(ICPF)のシンポジウム『情報通信の競争力:国策研究開発の意義』が終了した。シンポジウムで多くのパネリストが繰り返し指摘したのは権威主義の弊害である。いくつか例をあげよう。

ナショナルプロジェクトを大手だからという理由で大企業に委託しても、受託した側は一流の研究者は割り当てない、という指摘があった。これは、大企業が受託をノーリスクと認識し、自らの経費で実施する、リスクをかける自社プロジェクトよりも劣位に位置づけるためである。名だたる大企業がすべて参加していると、あたかもオールジャパンで進めているかのような印象を受けるが、だからといってプロジェクトが成功するわけではない。


研究提案書を公募してその中から優秀な提案を採択する競争的資金配分の仕組みでは、提案書を評価する委員を学会の権威に委ねる場合が多い。しかし学会の権威が1980年代の感覚で提案を選別する結果、古くからの分野ばかりが採択され、新興の研究分野には研究資金が回らない事態が起きている、という指摘があった。これが、わが国では研究開発自体がガラパゴス化している原因の一つになっている。パネリストの一人は、情報通信分野では基礎研究から実用化までが短期間に進み、フェーズごとに目利き役に求められる資質は異なるのに、評価委員は10年以上も固定化している、と指摘した。

「二番で何が悪いんですか」で有名になったスーパーコンピュータについても意見が交換された。スーパーコンピュータ分野では一流の研究者が理研の開発計画は無駄と評価しているのに、ノーベル賞受賞者たちがしゃしゃり出て決定を覆した。ノーベル賞受賞者といってもスーパーコンピュータについては素人なのに権威を振り回すのも、それに屈服するのも問題という指摘があった。科学研究にスーパーコンピュータを使いたいのなら、スーパーコンピュータはもっとも安く手に入れて科学研究に金を回すべきなのに、ノーベル賞受賞者はそんな資源配分も考えられないのだろうか、という意見も出た。

政府の施策は決して失敗しないことになっている。もし失敗すると税金を無駄遣いしていると批判されるために、すべての判断がリスクを回避する方向に向かう。権威の判断にすがったり、著名な研究者や大企業に委託しようというのも、このリスク回避行動の結果である。それでは、いつまでたってもガラパゴスから脱却できない。そもそも研究開発には失敗が付き物で、始める前から成功するか失敗するかなど決められるはずもない。政府による研究開発投資でも絶対安全などあり得ない。だから失敗を税金の無駄遣いと批判するのは避けるべきだ。

それでは、どうしたらよいのだろうか。

一案は評価のプロセスを徹底的に公開することである。事前評価の段階では、個々の提案を個々の評価者がどのように評価したか、その結果、どんな提案が採択されたかを詳細に公表する。事後評価も同様に行う。それを積み上げていけば、信頼のおける評価ができる評価者が次第に選別されていくだろう。政府から研究開発投資を受ける側についても、どの組織は成果を上げることが多く、どの組織は失敗が多いかが、目に見えてくるはずだ。

シンポジウムの様子はICPFのサイトに掲載した。また9月下旬からは無料ネットテレビ「ピラニアTV」で公開されることになっている。

山田肇 - 東洋大学経済学部

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