知られざる第3のビール戦争(1)

加藤 鉱

 今年6月、第3のビール「TOPVALU BARREAL」をイオンは88円で投入し、10週間で約3000万本を売り切った。この「BARREAL」を製造しているのが韓国メーカーであるとご存じの方はどれほどおられるだろうか? なぜイオンは、世間に認知されたNBではなく、敢えて韓国メーカーをパートナーに選んだのだろう? 昨年7月に「トップバリュ 麦の薫り」が発売間もなく姿を消してから、ここに到るまでの紆余曲折を説明しつつ、前回お届けした「PB後進国日本の現実」で頂いた「PBに製造者の名前が載ることに問題があるのか?」という質問の回答へとつなげることにしよう。


【店頭から消えた第3のビール】

 「TOPVALU BARREAL」の発売から遡ること10ヶ月。昨年7月24日、大手小売グループのイオンとセブン&アイは第3のビールのPBを同時発売した。

 イオンの新PBは「トップバリュ 麦の薫り」でスーパーやコンビニでの販売価格は350ミリリットル缶で100円、大手ビールメーカーのNB(ナショナルブランド)より2割ほど安い。セブン&アイは「THE BREW ノドごしスッキリ」で対抗、コンビニのセブンイレブンでは123円だが、スーパーのイトーヨーカ堂などでは6缶パック600円、実質100円だ。イオン、セブン&アイはサントリーからそれぞれ年間500万ケース(1億2000万本)の供給を受ける計画と発表された。

 わたしが違和感を感じたのは、それに先立つ6月29日、第3のビールという同カテゴリーのPBを両社ともにサントリーにつくらせ、しかも同日に発表したことだった。

 とても偶然とは思えない。

 ビール業界万年シェア4位に甘んじていたサントリーが2008年にようやく3位に浮上。サッポロの逆襲を許さないためにも、大手小売のPB供給を請け負ったのだろうというのがメディアの論調だった。

 売れ行きは? 両者とも、前評判どおり、好調なすべりだしをみせた。「麦の薫り」については、予想の3倍の売れ行きをみせて、初回出荷分の16万ケースをわずか2週間で完売、取り扱い店では、次回の入荷を心待ちにしていた。

 ところが、「麦の薫り」は店頭から消えたままだった。サントリー側がなかなか増産に応じようとしないからで、当然、イオン側は苛立った。サントリーからのPB供給を先に決めたのはイオンであった。

 2008年5月、サントリーのほうから取組強化の一環として、第3のビールPB供給を提案してきた。3月後の8月5日、サントリーの佐治信忠社長とイオンの岡田元也社長とのトップ合意がなされた。

 遅れて交渉を始めたセブン&アイは、弁当の見切り問題でぎくしゃくしたセブンイレブン加盟店に儲けさせるため、大ヒット確実と思われていた第3のビールの供給がどうしても必要だった。ここで指摘しておきたいのが、サントリーという会社のいい加減さだ。同カテゴリーの競合商品を同時につくること自体、あってはならないことだからである。

 発泡酒はA社から委託製造を受け、缶チュウハイについてはB社というようにカテゴリーがクロスしているならばわかる。ところが、今回のサントリーはまったく同じカテゴリーの第3のビールを国内小売最大手の2社に供給する。しかも、まったく同時に。これには先行して話をまとめたイオンは仰天した。

【小売業にあるPBの価格決定権】

 「麦の薫り」の表示をみると、「販売者イオン。問い合わせ先もイオン」。なにかトラブルが起きたときの責任は販売者がすべて負うというもので、これが本来のPBのありかたである。

 トップバリュなどイオンのPBには販売者イオンのみで、製造者名は表示しないが、アルコール類に関しては乳等省令に則り、メーカー名の表示を義務付けられる。セブン&アイの「THE BREW」には「この商品はセブン&アイHOLDINGS.グループとサントリー酒類の共同開発商品です」、続いて、「製造者サントリー酒類」とある。問い合わせ先は、「サントリーお客様センター」になっている。

 これは本来のPBの要件を満たしておらず、明らかにダブルチョップ(共同開発ブランド)で、PB後進国の日本だからこそ許される表示と言われても仕方あるまい。

 さらにサントリーは両社が自社PBとして華々しくPRするのに対し、明確にPBとは認めず、自社主導型商品のようなニュアンスに終始し、どうにも煮え切らない感じだった。

 販売者となる小売業が製造委託者に対して、製品の仕様を決定、原料の履歴、生産工程、流通、販売までの全工程を管理できるものをPBという。もっと踏み込むならば、「こんな性能でこんな値段の商品を買いたい」といった消費者ニーズを吸い上げる購買代位人の立場となって開発されたものが本当のPBであり、メーカー側の販売代位人となって開発されたものはPBとはいえない。

 だから、全責任を負う販売者が価格決定権をもつわけである。

(以下次号)

ノンフィクション作家 加藤鉱